バルクロは驚きに震える手でサラの肩を掴んだ。

「なんて危ないまねをするんだ! 僕のことなんか放っておいていいのに」

泣きながらサラの肩を揺するバルクロに、サラは言い返した。

「三人で一緒に暮らすんでしょ?」

「サラ……」

そんな二人の頭上を黒狼が飛び越える。

「あそこの扉から通路へ出られる。三つ目の部屋へ早く!」

グレンが鍵を投げてよこすと、バルクロがそれを受け止め、サラの手を掴んで扉へと駆け出した。

グレンは剣で黒狼を交わしながら床に落ちていた箱を見つけて、扉の外へと滑らせた。

サラが部屋を出たのを見届けると、グレンも素早く部屋を出て扉を閉めた。

――このままじゃどうにもならない。

グレンは箱を拾い上げ、隣の部屋の扉を開けた。棺の蓋を押し上げ、奏での箱を開く。

「伯爵様、お力をお貸しください」

地下室に響くオルゴールの音色が吸血鬼の眠りを呼び覚ます。

むくりと体を起こした吸血鬼は真っ赤な目を見開くと、グレンを睨みつけた。

「まずは食事だ。話はそれからだ」

吸血鬼は掠れた声でそう言うと、棺の縁に手をかけ、ゆっくりと床に降り立った。

その吸血鬼はグレンの曽祖父だったが、見た目はグレンとそう変わらない。

「今は食事を用意している時間がありません」

グレンは部屋を見回してそう答えた。

さっきの部屋にならワインや果物が備えてあるが、この部屋には残念ながら口にできそうなものは何もない。

吸血鬼はグレンの声など聞こえていないかのように歩き出す。やがてその足がぴたりと止まった。

「良い匂いがする」

青白い顔の中で、高く尖った鼻が何かの匂いを感じとってひくひくと動いた。

吸血鬼は躊躇いなく通路へ出て左へ曲がった。

そちらは魔物たちがいる部屋ではなく、サラたちが向かった部屋の方だった。