サラはすぐに馬鹿な質問をしたと思った。けれど、グレンはさらりと答えた。

「また必要とされる時まで」

誰に何を必要とされるのか。雲を掴むような答えにじっとグレンの目を見返していると、御先祖様の日記にそう書いてあったんだよ、とグレンは肩をすくめた。

その後すぐに、階段を降りる足音とともにバルクロが部屋に飛び込んできた。

「サラ、やっぱりあっちの世界には行けそうにない。奴らはもう言葉も理性も失っている。ここに扉を開いたら僕らも早く逃げなきゃ」

バルクロは叫ぶように言って、サラとグレンの手に箱を押し付けた。

「確かこの部屋にはもうひとつドアがあったよね。そのドアから外に行く道は?」

「三つ目の部屋にある」

「よし、じゃあ箱を開こう」

風が勢い良く渦を巻き始めた。階段の上からは何かがドアに体当たりしているような音が響いてくる。

先程と同じならどんどん風が強くなり中央に暗闇が現れるはずだった。けれど、風はすぐに止み、何も起こらなかった。

「やっぱりふたつ同時に開くのは無理なのか……」

バルクロの声は獣の唸り声にかき消された。

タンッと地面を蹴った黒狼が柩の上から三人を見据える。

「二人とも先に逃げろ」

バルクロに促されて、グレンはサラを扉の方へ連れ出す。

振り返ったサラの目の前で、黒狼はバルクロに飛びかかりその体を床に押し倒した。

荒い息とともにその牙がバルクロの喉に今にも食らいつこうとしている。

サラは無意識のうちにバルクロの方へ駆けだすと、黒狼の体にしがみついていた。

「やめて、お願い!」

黒狼の牙が今度はサラに向けられる。

グレンは素早く壁にかけてあった剣を手に取り、黒狼に切り付けた。

黒狼はすんでのところで飛び退き、グレンに唸り声をあげる。