薄暗い地下に続く階段に、先導するように次々と蝋燭に火が点っていく。

グレンの部屋から続く階段の下はひとつの部屋になっており、ハンナと歩いた通路は見えなかった。

恐らく、地下にはいくつかの部屋があり、グレンの部屋はそのひとつと階段で繋がっているのだろう。

部屋の中にある棺は蓋が開かれている。その中に三年の間ローラは眠っていたのだ。

もしグレンが助けてくれていなければ、ローラは病で命を落としていたかもしれない。

サラはグレンを見上げ改めてお礼を言った。

「母を助けてくれてありがとうございます」

「こんな風にローラを蘇らせる日がくるとは思わなかったよ。俺はただローラの言葉を信じただけだ。ローラは君が助けに来ることを予知していたんだな」

グレンは机の上の燭台にも火を灯し、棚から何かを取り出している。

真鍮の筒から取り出されたのは三角錐の小石のようなものだった。

「それは何ですか?」

サラはグレンの手元を覗き込む。そこからグレンの香水の香りが強く香ってきた。

「これはお香だよ。御先祖様に安らかに眠っていただくためのものだ」

そう言いながらグレンは鉄皿の上にお香を置き火を着けた。

ゆらりと立ち上る煙から、部屋中に香りが広がっていく。

「グレンからいつもしていたのは、このお香の匂いだったんですね……」

「確かにこの匂いが染み付いてるな。父がここへ入るのを嫌がっていたせいで、子どもの頃からずっと香をたくのは俺の役目だったからね」

「それであの時も……」

ハンナが地下でオルゴールを鳴らした時、目覚めた吸血鬼をグレンが眠らせた。

「吸血鬼は死なない。かと言っていつまでも当主が代替わりしないままでは、人々に気味悪がられてしまうからね。……ここで長い眠りにつくんだ」

「いつまで?」