「ようやくまた扉が開いたわ。箱を集めるの苦労したのよ」

エレインはそう言うと長い黒髪を揺らして立ち上がった。ローラは入り口を背に立ち、そこからエレインに話しかけた。

「何故そんなに扉を開きたいの? まだふたつの世界を繋ぐのは早すぎるわ」

「早すぎなんかじゃない! いつまでも行来を絶っているから、誰も幸せになれないのよ。あなたたちだってずっと人間に酷い目にあってきたでしょ?」

叫ぶようなエレインの声に、ローラは口を噤む。ローラが何を言っても今のエレインには届かない。

「ならどうするつもり?」

「人間にだって階級があるわ。貴族に平民、奴隷。今までは人間じゃないってだけで、私たちは奴隷扱いされてきた。でも人間に何ができるっていうの? 私たちの方が長生きだし、魔法も使える。これからは支配するのは私たちの方よ」

「人間は馬鹿じゃない。そんなことは不可能だわ」

「知ってる、ローラ? この邸にいったいどれだけの吸血鬼が眠っているか。この街には吸血鬼の伝説がある。領主が吸血鬼なのよ? この街なら簡単に支配できるわ。かつての領主がそうしたようにね」

「グレンがそんなことはさせないわ」

「吸血鬼にとって魔女の血がどれだけ魅力的か知ってる? たった一滴で虜にできるのよ」

エレインはそう言うと部屋の中央に向かって歩いた。

そこに青白く魔法陣が浮かび上がる。そしてその手には小さなナイフが握られていた。

ローラははっとしてエレインに駆け寄った。

瞬く間にエレインの姿は掻き消え、ローラはたたらを踏むと、辺りを見回した。

部屋にはもうエレインの姿はなかった。