「お前もあっちの世界で暮らせばいいんじゃないのか?」

「馬鹿ね。人間の世界にいるからこそ魔法は役にたつのよ」

エドニーの口は相変わらずエレインの言葉を伝えている。黒狼にバルクロが抑えられている今なら、箱を奪い返すこともできるだろうのに、その体は動かない。

ヴィルヘルムが動くより早くローラが箱を拾い上げた。

その蓋を閉じるとヴィルヘルムの小さな体も箱の中に吸い込まれて消えた。

「あなた、この箱をサラに」

「君は!?」

「エレインと話があるの」

渦の中から出てこようとする魔物たちを見れば、もう時間がないことは明白だった。

人間たちの中に飛び出していってしまえば、待ち受けるのは射殺、もしくは捕獲されて永遠に閉じ込められる未来しかない。

魔物たちが考えるほど人間は優しくないし、弱い生き物でもない。

人間たちは武器を発明し、自分よりも強い存在に打ち勝つ術を持っている。

この世界に魔物たちのいる場所はない。

バルクロは手の中の箱に目を落とし一瞬だけ躊躇った。けれど、ローラの頼みを引き受けることが今は最善だった。

バルクロは黒狼を引き付けながら地下への扉に飛び込んだ。

あちらの世界では先に開いた扉に魔物たちが押し寄せているだろう。

二つ目の扉が同時に開けば、この部屋を通ってまた向こうの世界へ送り返せるはずだ。

今はまだ、互いにとってそれが一番安全な方法なのだ。

ローラはエドニーの手を引いて廊下へ続く扉を出た。

ドアには念の為中から開かないようにまじないをかけた。

「さぁ、エレインの所へ案内してちょうだい」

エドニーは操られたまま歩き出した。

エレインは客室のひとつにいた。ベッドに腰掛け、ローラが来るのを待っていた。