バルクロは封じの箱を手に、グレンは両腕にローラを抱いて戻ってきた。

サラはほっと胸を撫で下ろし、ソファに横たえられたローラに駆け寄った。

「お母さん……」

バルクロは机の上に封じの箱を置き、代わりに癒しの箱を手にとるとそれをサラに手渡す。しばらくするとサラの手の中でカチリと鍵の外れる音がした。癒しの箱はそれを必要とする者が近くにいる時だけ開くという。

バルクロは奏での箱を手にとり、ゆっくりとその蓋を持ち上げる。眠りし者を呼び覚ますという奏での箱は、普通のオルゴールとは違いぜんまいもシリンダーもついてはいない。それでも今にも音を奏でようとする微かな振動を感じた。

ふたりは逸る心を抑えながらゆっくりと箱を開いた。サラの手の中にどんな病も怪我も治すことのできる魔法の粉が現れた。キラキラと砂金のように輝く粉を掬いとり、慎重にローラの体にふりかけていった。

オルゴールの優しい音色が部屋に流れ出す。

三人は息を飲んでローラが目覚めるのを待っていた。

「お母さん! サラよ。目を覚まして!」

サラの呼びかけに答えるように、ローラの白い頬に徐々に赤みがさし、ゆっくりと瞼が上がる。その両目がサラをとらえ、口許に笑みが浮かんだ。

サラは体を起こそうとするローラの背に手を添える。まるでほんの少し横になっていただけというようにしっかりと伸びた母の背筋に安堵した。

「大丈夫よ、サラ。ありがとう。元気そうで良かった……」

ゆっくりとサラに向けられた声も眼差しも三年前と同じだった。

「ローラ!」

バルクロは我慢できないという風にローラを抱きしめ、はらはらと涙を流した。ローラはそこに夫であるダンがいることに驚いているようだった。

「あなたまで……」

「会いたかったよ、ローラ。僕のためにすまない」

ローラは呆れたようにその泣き顔を見て「何を謝ることがあるの」と、バルクロとサラの髪を撫でながら微笑んだ。

「グレンも、助けてくれてありがとう」

グレンはローラの伸ばした手を恭しくとると、その甲に口付けた。

これですべてが丸くおさまるかに思えたその時、グレンの執務机の上から書類が風に舞ってヒラリと落ちた。