「だけど、三つの箱が同時に開いた時は少し違う。あちらの世界への扉が開く。箱の番人は魔物をあちらの世界へ送り届ける役目を担う。そして再び箱を閉じて終わりさ」

「バルクロはあちらの世界を見たことがあるの?」

「少しだけね。話に聞くところでは、あちらの世界を作った魔女が死んでからかなり荒れているらしい。こっちの世界に戻りたいと思っている奴らも大勢いるみたいだ。だけど……」

バルクロは両手の拳を握り締め唇を噛んだ。奴隷として人間から受けた仕打ちを思い出せば、仲間たちをこの世界に呼び戻すことが幸せだとは思えない。

「やっぱり住む世界は分けるべきだと思ってる。人間とは分かりあえない」

「じゃあ、バルクロはあちらの世界に行きたいの?」

「ローラとサラが一緒に行ってくれるならね」

サラは思わずグレンの顔をうかがっていた。あちらの世界に行けばグレンとは離れ離れになってしまう。

「今ならそうすることができる。サラ、親子三人で一緒に暮らしたい。こちらの世界ではできないけれど、あちらの世界に行けばそれが叶う」

バルクロは期待に満ちた眼差しでサラを見つめていた。

「今はまだそこまで考えられない。とにかくお母さんを助けるのが先だわ」

「もちろんだよ。ゆっくり考えてみて」

サラは曖昧に頷いた。

いよいよ、母に会える。その瞬間、繰り返し見たあの夢が蘇ってきた。

奏での箱はローラだけでなく、地下に眠る吸血鬼たちも目覚めさせてしまうかもしれない。

「お母さんをここに連れて来てから目覚めさせる方がいいと思うの」

サラはグレンに向けてそう言った。サラが危惧していることがグレンには伝わったのか、グレンは頷くと立ち上がった。

女性ひとり抱えて来れないことはない。

少なくとも華奢な体躯のバルクロよりグレンが適任だ。

その時、ノックの音がしてエドニーがエレインの所在を報せに戻ってきた。

「エレイン様はお部屋にいらっしゃいました」

それを聞いてバルクロが立ち上がった。

「急ごう。エレインに邪魔される前にローラを目覚めさせよう。サラはここで待っていて」

「でも……」

「すぐ戻る」

バルクロとグレンは足早に地下へと下りていった。部屋にはサラとエドニーのふたり、そしてふたつの箱が残されていた。