「ところで、封じの箱だけど、さっきはエレインが持っていたようだけど、まさか」

バルクロの眼差しが険しくなる。

「いや、封じの箱は地下に置いてある。エレインに渡してはいない」

「もう既に奪われたという可能性は?」

さっきはちらっと見えただけで逃げ出してしまった。あれが本物かどうかは分からない。エレインのはったりという可能性もあった。

「地下に入るには領主しか持たない鍵が必要だ。それなのに君たちは地下から出てきた。俺の知らない出入り口があるというのなら、その可能性も無くはない」

グレンは地下へと続く扉へ目を向けると、訝しげに眉をひそめた。

「サラの部屋に魔法陣が仕掛けられていた。おそらくエレインの仕業だと思う」

「エレインが部屋にいるか確認しよう」

バルクロの言葉にグレンはすぐに立ち上がりエドニーを呼んだ。

エドニーが確認しに行っている間に、グレンは箱についてバルクロから話を聞くことにした。

「今この館に三つの箱がある。四つ目の箱はどういう力を持っている?」

「そう言えば、箱の番人て言ってたけどあれはどういう意味?」

サラとグレンから矢継ぎ早に質問を受け、バルクロはテーブルの上に置いたふたつの箱に目を落とした。

「昔三人の魔女がいた。それぞれに癒しの箱、奏での箱、封じの箱を作って、この世界と魔物たちの住む世界を行き来するための扉の鍵にした。僕はローラの消息が分からなくなって、ローラはあちらの世界に行ってしまったんだと思っていた。まさかここにいたなんてね……」

サラの占いでもローラの行方は占えなかった。バルクロが見つけられなかったのも無理はない。バルクロはサラを見て浅く笑った。

「話がそれちゃったね。箱の番人ていうのはつまり、箱が人間の手に渡らないように見張る役目を持っている。封じの箱に閉じ込められてね」

「じゃあ今はヴィルヘルムが箱の番人なの?」

「そう。封じの箱から出る時には代わりに誰かが番人にならなきゃならない。鍵を持つ者が現れたら呪いをかける。願いを叶える振りをして、箱に閉じ込めるんだ」

サラは庭で封じの箱を開いた時のことを思い出して、背筋が震えた。もしあの時ヴィルヘルムの言葉を跳ね除けなければ、今頃箱の中に閉じ込められていたかもしれないのだ。