「この世界で魔女や妖精は嫌われ者だからね。いつまでも身を潜めて暮らすしかない。でもそれは仲間の数が少ないからだ。もしこっちの世界で魔物たちが数を増やしたらこの世界は混乱に陥るだろうね。エレインの狙いはそこだと思う」

「混乱させてどうするつもりだ?」

それまで黙って聞いていたグレンが口を挟んだ。

「さぁね。高みの見物で楽しむのか、この世界を乗っ取る気なのか。僕も正直、奴隷として生きるくらいならってエレインの言葉に惑わされたことがあるから……」

バルクロは焼印の押された左肩の辺りを擦りながらそう言うと、グレンに目を向けた。

「エレインからサラを守って欲しい。君も吸血鬼の血を引く存在なら、エレインに立ち向かえるはずだ。……僕が頼めた義理じゃないけど」

「あなたがローラの夫であり、サラの父親であるダン・ブラウニングだと言うなら、敬意を表すべきだと思っている」

そう言いながらグレンはサラを見た。

「君が彼の話を信じるなら、俺も信じることにする」

サラはしばらくグレンの目を見つめ返していたけれど、やがて静かに頷いた。

バルクロはベイルの街でも、この間貧血で倒れた時にも、そして今日、地下で闇に閉じ込められている時にも助けに来てくれた。

そんな人をどうして疑い続けることができるだろう。

「信じます」

バルクロはサラからその言葉を聞くと、嬉しそうに破顔しサラを抱きしめた。どう見ても親子には見えない男女の抱擁に、グレンがわざとらしく咳払いする。

それでも胸に沸き起こるのは嫉妬と言うよりは、安堵に近いような気がして自然と口許はほころんでいた。