「ずっと父親だってことを隠しておくつもりだったの?」

「父親が奴隷だったなんて知りたくなかったよね、ごめん」

「そうじゃなくて、じゃあ何故ベイルの街で私の前に現れたの?」

「ローラが箱の中から助け出してくれた後、僕はずっとサラのことを影から見守っていた。僕を箱から出して代わりにヴィルヘルムがまた箱に閉じ込められたことで、エレインに追われることになったからね。ローラも姿を隠すしかなかったんだ」

バルクロはベイルの街でのことを思い出すように窓の外に目を向けた。けれど外はすっかり暗くなっている。ガラスには部屋の中がぼんやりと映っていた。

「僕とローラはベイルの街で連絡を取りながら、君を見守っていたんだ。でも、ある日ローラと連絡が取れなくなった。僕は不安になって何度も君にローラのことを尋ねに行こうとした。でも、声をかける勇気がなかった。あの時、君が酔っ払いに絡まれてるのを見て咄嗟に飛び出してしまったけど、その時もローラのことを聞けずじまいだった」

「私に母を探すなって言ったのは?」

「君がローラの娘だとエレインに知られたら、エレインが君に何をするか分からないからね。僕たちはエレインから君を守ることだけを考えていた」

母がいなくなった理由がようやく少し分かったものの、できることなら本当のことを話してくれたら良かったのにと思う。そうすればサラにも何かできることがあったかもしれない。

「さっきエレインが邪魔しに来るかもしれないって言ったけど、エレインは何をしようとしているの?」

「ヴィルヘルムを取り戻したいんだと思う」

「それなら狙ってるのは封じの箱ってことね?」

「いや、それだけじゃない。エレインはあっちの世界、つまり魔物たちの住む世界からこの世界に魔物たちを呼び戻そうとしている」

「なぜ、そんなことを?」