二十年前、バルクロは今でも天使のような美しい容姿をしているが、当時は今より若く「妖精の血を引いている」という噂がどこにいてもついて回る程の美少年だった。

実際、妖精の血を引いていることは確かだ。そのせいで歳をとるのが人間より遅く、二十年前でも十六、七歳に見えていただろう。

癖のない金糸のような髪、白皙の頬に明るい水色の瞳。整った顔立ちに華奢な体は、少年を好む金持ちたちの間で高値で売り買いされる商品としてブローカーの目に留まった。

身寄りもなく、街をふらふらしていたバルクロは人買いの言葉に騙され貴族に売られた。奴隷として、肩に焼き印を押され人を金で売り買いするような獣の所有物にされたのだ。

逃げたくても足は鎖に繋がれ、牢に閉じ込められていてはどうすることもできなかった。

そこで出会ったのがローラだった。ローラはその屋敷でメイドとして働いており、口が硬いことを買われてバルクロに食事を運ぶ係を任された。

夜毎に傷が増え、心を病んでいくバルクロをローラは黙って見ていることができなかった。

ローラはバルクロを牢から連れ出し、二人は屋敷を逃げ出した。

しばらくは追っ手から隠れながらの逃亡生活だった。

「ローラがいなかったら僕は今頃生きていなかっただろうね。追っ手から逃げ回る生活だったけど、ローラといたあの頃が一番幸せだった」

二人は愛し合い、ローラは身ごもった。

子どもを安全に育てるためにも、バルクロはローラと離れることを決意した。

その時声をかけてきたのがエレインだった。

「魔物たちの楽園がある。妖精の血を引くあなたにはそこに行く資格がある」

エレインはそう言って言葉巧みにバルクロを誘った。

目の前に小さな小箱を持って現れたエレインは、バルクロをその箱に閉じ込めた。代わりに箱からはヴィルヘルムという悪魔が解き放たれた。

そこから十数年の間、バルクロは箱に閉じ込められたままだった。