ザダの門をくぐると、右手には様々な店が軒を連ね、左手には一般庶民の住む下町が広がっている。

門から真っ直ぐ大路をたどると広大な敷地に建つ領主の館がある。

下町から奥へ、領主の館に近付くほど金持ちの家が立ち並ぶようになる。

サラは門の目と鼻の先にある奇術の館という、いかにも怪しげな建物の中で働いている。

下町の店の中では立派な三階建ての建物だ。

一階は奇術ショーが行われる舞台と観客席。

二階の一部も客席になっているが、その他にいくつかの占い部屋がある。

三階は住居スペースだ。

珍しい動物の檻が並ぶ入り口の脇にある階段を上がり、一番奥の扉。そこがサラの部屋だ。

少し前、高級ホテルで起きた窃盗事件の解決に一躍買ったことから、一息に一番手前から一番奥の部屋に移動になった。

部屋の順序は評判で決まるのだ。

幾重にも重なり垂れ下がる幕をくぐり、奥のテーブルに進む。

そこには水を湛えた水盤。

サラの占いは水を使う。それともうひとつ。

「ようこそ。サランディールの占いへ」

神秘さを醸し出すためのベールの下から、サラは今日一人目の客の顔を見上げた。

思わずこくんと息を飲んだ。

勝手に鼓動が早くなる。この手のお客はサラの占いの勘を狂わせる。

慌てて目をそらせたが鼓動は静まらない。

目が勝手にお客の顔に吸い寄せられるように再びその顔を捉えた。

金、地位、力、智勇、それらを難なく生まれ持つ完璧な相だ。観相学など必要ない。サラの本能がその男の類まれなる運を一目で見抜いていた。

男はすすめてもいないのに当然のように椅子に腰を下ろした。

足を高く組み、笑いを含んだ目でじっとサラを見ている。

「な、何を占いましょう……」

サラは声が震えないようにそう言うので精一杯だった。