そうして、僕はその日から生徒会室にお邪魔してポスター作りを始めた。
 行事のテーマは「主体性」。生徒の自治組織としての生徒会の性格を表現したいという水島くんの意見が多分に反映されたとのことだ。

 水島くんの難しい話をなんとか僕なりに理解し、イメージをポスターの上に描き表していった。
 作成を始めて一日目、鉛筆で下書きを終えた僕は、青いラッピング袋から取り出した「お礼」の中身を開いて、色塗りに取り掛かった。

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 水彩色鉛筆。
 見た目は普通の色鉛筆でありながら、水で濡らすと水彩画のような表現ができる画材。
 水彩絵の具に比べれば持ち運びが便利な分、屋外で使う画材としても人気が高いらしい。

 金属製の薄いケースの中に、二十四色の水彩色鉛筆と水筆のセット。それが「お礼」の中身だった。
 遥奏が僕への贈り物としてこれを選んだ理由は、考えるまでもなかった。

『ほかに興味のある画材もあるの?』
 一月中旬、水族館に行った帰り、遥奏の質問に僕はこう答えた。
『強いていうなら、水彩絵の具かな。ただ、水を用意しないといけなかったり、いろいろ面倒だから、当面は色鉛筆でいいかなって思ってる』
 僕自身の頭からはすっかり抜けていたその回答を、遥奏の方はちゃんと覚えてくれていたらしい。

 僕は、遥奏がくれたその新しい画材を使って、水島くんや生徒会の人たちのイメージする世界観を、可能な限り白紙の上に表現した。

 普段の色鉛筆とは描き心地が微妙に違って、慣れるまでは思ったよりも苦戦した。水と組み合わせて色合いを演出するのも初めは上手くいかなくて、別の紙に練習しながら慎重に進めた。
 けれど、慣れてくると、普段使っている油性の色鉛筆では出せない繊細なニュアンスに魅了されて、どんどん描くのが楽しくなってきた。
 完成したポスターを見た生徒会の人たちの喜びいっぱいの顔を目にした時、世界が自分のために存在しているかのような錯覚に包まれた。

 『いつか、秀翔の描いた水彩画も見てみたいな』という君の願いを叶えることはできなかったけど。
 君のおかげで、僕は少しずつ自信をつけているよ。