「ってかフジの好みって、大人しめな子だったんだ。ちょっと意外」

手足が細長く、どの角度から見ても美人な人が、口を開く。


「そうですよね実さん、私もそう思いましたもん」

と、胡桃ちゃん。
美人な女性は、実さんというらしく。


「つかフジの好みって何だよ?」

と、やけにかっこい人が口を開き。


「そういえば今まで女いなかったよな?え、じゃあ初カノ?·····初カノなのか!?」

「湊、そろそろうるせぇ」

辰巳君が低い声を出し、ため息を出しながら雑誌を読んでいた。


「だからお前に言うの嫌だったんだよ」

「何だと!? 」

「ちょっとー、湊はいいとして、なんで私と大駕には教えてくんなかったの?」

「大駕には言っていいって胡桃には言ってたけど。実にいったら湊に言うだろ?」

「まあ、確かにね」

「私大駕に言ったよ?どーせ酔っ払って覚えてないんでしょ」

「マジ?」


やけにかっこいい男の人は、大駕という名前みたいで。

「だからなんで俺だけはぶかれんだよ!」

「うるせぇからだよ」


和臣が突っ込みを入れていて、少し笑いそうになった。

「ごめんね、うるさくて。えっと何ちゃん?密葉ちゃんだっけ?」

大きな瞳をむける実さんという女性。
顔が整いすぎていて、話しかけられているというのに声が出なくて。


「·····いえ」

やっと声が出たと思えば、小さすぎる声で。



「まあ、俺の彼女ってことで」

和臣が私の肩に腕をまわし、引き寄せる。
和臣を見つめれば、やっぱり優しく笑ってる。



「ごめんな、うるさくて。いつもこんな感じなんだよ」

「ううん」

「しつこい奴もいるし、嫌なら言ってくれればいいから」


しつこい奴·····。
強引すぎる和臣が言うなんてと、笑いそうになった。
呆れている口調の和臣だけど、私は少し嬉しかった。


「そんな事ないよ。私、いろんな和臣の顔見れて嬉しいよ? すごく仲がいいんだなって伝わってくるから」


私が笑いながらそう言うと、和臣は一瞬動きを止めたあと、硬派な顔を崩しいつもより嬉しそうに笑った。



「え?いい子すぎない?」

「だな、フジには勿体ねぇな」


そんな声が聞こえ、私はそれを否定しようとした。
だって私の方が、私には勿体ないと思っているのだから。


「行くわ」

けども、和臣が立ち上がり私の手を掴んで立ち上がらせようとするから、そう言えなくて。

行く?
どこに?



「今出ない方がいいと思うけど」

私の手をひき、この部屋へ入ってきた扉へ向かう和臣。
そこに辰巳君が雑誌から顔をあげて言ってきて。


「あーそうだな、外凄いことになってそう」

大駕さんが、面白そうに言う。


「え?なんで?」

「あんた馬鹿ね、フジの女よ?もう10分ぐらいたってんのよ?集まってるに決まってるじゃない」

「ああそうか」

湊さんと、実さんが会話をしていて。



「いいんだよ、早く2人になりたいからな」

私を連れ、扉を開ける和臣。



「今日はもう戻んねぇから」


そう言い残し、私を連れて部屋を出た。



辰巳君が「出ない方いい」といった理由が分かった気がした。
思わず足が止まりそうになる。

手を繋ぎ、階段を降りる和臣。
反対の手には、腕に下がっている鞄と、さっき和臣がくれたお茶があって。


「来いよ密葉」


来いと言われても·····。



「早く2人になりたいからな」


視界に入ってくるのは、何十人もの男女。部屋に入る前も、確かに人はいる事はいた。
けど、人数が、ありえないぐらい増えて·····。



「あの人がフジ君の?」

「え!出てきたの?」

「ちょ、見えないし!」


何十人·····、ううん、100人は普通に越えてる。


もしかして、この人たちは和臣を見に来たの?
総長だから?
和臣が暴走族の総長だから、ここにいる人達は和臣を見に·····。



「和臣·····、いつもこんなに人がいるの?」

「いや、滅多にない。暴走ある時ぐらいじゃねぇの?」

「え、じゃあ今日暴走あるの?」

「ないよ」



ない?
ないのに、これだけ集まってるの?


「みんな密葉を見に来てるんだよ」

「私を?」


どうして私を?


「俺の女だから··族の総長の女って言うのは、それほど価値があるんだ。·····だから本音言うと、あんまり密葉をこういう目立つ存在にしたくなかった」


和臣の彼女だから·····。
目立つ存在に·····、でも私の我儘でここへ来てしまったから。

まさかここまでとは思わなかった。
ただ、和臣に会いたいだけだった。

こういうことになるなんて、思いもしなくて。



「·····ごめんなさい、こうなる事分からなくて·····、知ってたら来なかった·····」

「なんで密葉が謝るんだよ、中に入るの決めたのは俺だし。言っただろ?」



言っただろ?



「目立つ存在にしたくねぇって言っても、本当はみんなに紹介·····自慢したくて仕方なかったよ。密葉は俺のだって。謝るのは俺の方」



和臣はそう言い、私のおでこの上辺りにキスを落とした。


それを見た大勢の人が、騒がしくなった。




これが‘フジ’·····。
私の知らない和臣の姿。

そんな和臣を知れて嬉しいと思った。

でも、私が好きになったのは‘和臣’であり、‘フジ’では無く。
強引で、ストーカーな和臣が好きなのだから。


「うん、私は和臣のだよ」


和臣が幸せそうに笑えば私も嬉しくなる。
早く2人にきりになりたいと言った和臣は、大勢がいる中、歩いてバイクの方へと向かう。


当たり前のように2個あるヘルメットは、私を簡単に喜ばせた。


早く2人になりたいと言った和臣は、私の住む街の方へとバイクを走らせた。


「ちょ、ちょっと待って·····」

和臣は人気のない静かな公園にバイクを止めた。ヘルメットをとり、ベンチに座った瞬間、和臣が顔を寄せてくる。


「嫌」

少し強引に、唇を重ねてくる。
離れてはまた重ねてくる和臣は、なかなかキスをやめなくて。

それが嫌だとは思わない私は、和臣に体を預けていた。


名残惜しそうに離れ和臣は、私に視線を合わせ、そのまま抱き寄せてくる。



「マジで今日はなんの日だよ·····」

「え?」

「密葉から電話はかかってくるし、密葉が俺に会いに来てくれたし、こうして密葉と一緒にいれて、今日なんの日だよって」


その言葉に、くすくすと笑った。


「もう大丈夫なんだな」


和臣言う大丈夫とは·····。


「もう私自身で自覚してるから·····。本当にいきなり、気づいた瞬間世界が変わったみたいだった。·····、どうして私あんな事をしてたんだろうって思って」

「そうか」

「···和臣のおかげだよ、ありがとう」

「それは違う、密葉が頑張ったからだ。密葉が自分の意思で気づいたから」

「違うよ。和臣が私を救ってくれたんだよ」

「まあ、そうだな、俺頑張ったな」

「否定しないの?」


思わず笑いが漏れて、和臣から少し離れ、和臣を見上げた。

視線が合い、ずっと私を見つめる和臣は、触れるぐらいのキスをくれて。


「大和が言ってたんだ」

「お兄ちゃん?」


また和臣はキスをする。
キスの合間に喋るから、私の心はドキドキし続けっぱなしてで。


「昔と今の密葉の笑い方は全然違うって」

「笑い方?」

「ん、何だろな。その·····前の密葉も笑ってたけど、今は垢抜けたっつーか·····。密葉が笑ってんの好きだったけど、やっぱり違う。今日会ってびっくりした」

「びっくりしたの?」

「うん、可愛すぎてびっくりした」

「な、も、やめてよ·····」


恥ずかしくて顔を下に向けようとするけど、私の頬を包む和臣の手が許してくれず。

またキスをしてくる和臣は、今度は深く舌をゆっくりと使い、口内を動かしていく。






この公園に来てからずっとキスをしてくる。

和臣の深いキスが終わらなくて、だんだん体が熱くなる感覚に慣れず、私は和臣の服を掴んだ。
こんなに長い時間キスをするなんて今まで無かった。


唇が離れた時、大きく息を吸った。


「か、かずおみ·····」

頬にキスをする和臣は、その首筋へとキスをしていき。



「今日な」

「んっ··········」


突然首筋で喋ってくるから、変な声が出てしまい。

「今日·····、来てくれて嬉しかった」

ドクンと心が鳴る。


「電話の時も。ずっと待ってた電話が来た時もすげぇ嬉しくて。密葉が俺を信用してくれて、マジで嬉しかった」

「うん」

私を信用してくれていた和臣。
私が自分自身で気づくことを、私ならできるとずっと待っていてくれた。
私が自分自身の心の病気と向き合える日を。


「なあ」

「·····うん」

「··········やりてぇ」

「え?」

「今すぐしてぇ·····、ずっと待ってたから·····この日を」