人気のない所だと思った。
駅から10数分ほど歩けば、住宅街から離れていき。どちらかと言えば、古びた工場地帯の方へと向かっていく。
歩く度に、バイクの音っていうのだろうか、ブロロロ·····っていう音が、耳に入ってきた。
「今日日曜日だし、そんなに人いないと思いますよ」
まず初めに、ずらりと並んでいるバイクが目に入った。広場のようになっているそこには、若い男女が喋ったりしていて。どちらかというと、男の人の方が圧倒的に多くて。
その奥には二階建てのような建物があった。
1階は倉庫のようで、シャッターが半分ほど開けられていて。
正面から見て左側に階段があり、その先には2つの扉があった。
「おおおっ、奈央じゃねぇか!久しぶりだな!!」
その時、すごく大きな声を出し、近づいてきた男が奈央君の名前を呼んだ。
「こんばんわ、湊君」
奈央君が軽く頭を下げる。
湊·····。
その名前は何度か聞き覚えがあった。
確か和臣は、湊という名前が出れば面倒くさいと··········。
「おっ、奈央の彼女か?すげぇ大人しそうな子だな!」
私に気づいた湊という男は、やっぱりテンション高く喋りかけてくる。
「違いますよ。湊君、すみませんが兄ちゃん呼んできてもらえませんか?」
「辰巳?」
「はい。お願いしていいですか?」
「なんか分かんねぇけど、分かった、辰巳な!」
やっぱりテンションの高い彼は、建物の方へ行き、2階へと続く階段へと足を向けた。
その場から動かない奈央君は、私を物陰へと連れていった。まるで、中にいる数人の男女に見せないように。
私と奈央君がここにいることを知っているのは湊という人だけということになるけど。
「中に入らないの?」
「はい。多分、湊君がフジ君を連れてくると思いますから」
和臣を?辰巳君ではなくて?
だってさっき、「兄ちゃんを呼んできて欲しい」って、奈央君が言ってたのに?
「それに俺がフジ君の彼女を、中に連れて行くわけには行かないから」
「え?」
「俺、そんな事したらフジ君にキレられるかもしれません」
キレられる?
奈央君が和臣に?
あの優しい和臣が?
「和臣が怒るの?」
「はい」
「どうして?」
「ホント言うと、こうしてここに連れてきただけでも怒られそうだから」
「でもそれは·····私が言ったから·····」
「そうだとしても、連れていくっていう判断をしたのは俺ですから」
和臣は言っていた。
私を暴走族に関わらせたくないと。
密葉は密葉のままでいてほしいと。
つまりは、私は今、和臣がしてほしくなかった事をしてるってこと。
暴走族に関わってほしくなかったから、和臣は私に何の話もしなかった。
暴走族という不良の世界に、私を巻き込みたくなかったから。
きっと、それは奈央君にも分かったんだ。
だからって、連れてきた奈央君が怒られるなんて·····。
私は奈央君が止めてきても、ずっと和臣を探し回ってた。きっと1人でもここに来ていたから。
「密葉っ!」
その時、大好きな人の声が、耳に届いた。
会いたくて会いたくて仕方が無かった存在。
和臣はここまで走ってきたのか、それほど遠い距離ではないけど、凄い勢いでダッシュしてしたのか息が乱れていた。
すごく驚いている和臣は·····。
「なんでっ」
「あの、和臣·····」
「なんでっ、なんでここに·····、奈央が連れてきたのか?」
そう言って、奈央の方を見た。
奈央は「はい」と、申し訳なさそうに呟き。
「どういう事だ」
私にじゃなく、奈央君に対して怒っているらしいは、少し低い声を出した。
「あの、和臣·····、私が連れてきてもらったの。たまたま会った奈央君に、無理言って連れてきてもらったの···。奈央君を責めないで」
私は、そう言って、和臣の服を掴んだ。
「密葉、何でだ?何で連絡しなかった? 俺、密葉が来ると思って連絡待ってたんだぞ」
「だって駅についたよって言えば、和臣は駅まで来たでしょう?」
「それは·····、密葉、道分かんねぇだろ?」
「うん、だから奈央君に連れてきてもらったんだよ」
私はそう言って、和臣に向かって笑いかけた。すると和臣は、一瞬動きを止めて·····。
「私が来たかったの、いつも和臣来てくれたみたいに、私から和臣に会いに行きたかった」
「·····密葉·····」
「本当は分かってるの、和臣、私をここに来させたく無かったんでしょう?」
「··········」
「私を巻き込ませたくなかったから」
「·····そ、うだけど·····」
「でも、来たかった。私、奈央君がダメって止めてても、ずっと和臣を探したよ」
「·········そうか」
「来たかったのは私の我儘。ごめんね」
「··········我儘?」
「うん」
「密葉が俺に?」
「うん」
「なら·····しょうがねぇな」
だって、私が我儘を言ったのは、侑李の世界を創ってから初めてのことだから。
それを和臣は分かっていたから。
「そんな顔で言われたら、怒るに怒れねぇよ」
和臣が呆れたように笑う。
「そんな顔?」
そう問いかける私の肩に腕をまわした。そのまま和臣が優しく引き寄せる。
「笑った顔、すげぇ可愛いって言ったんだよ」
奈央君に聞こえないように、和臣は優しく呟き·····。
「奈央、連れてきてくれてありがとうな」
「あ、いえ·····」
和臣はそのまま肩を抱き、中へと入ろうとする。
「え?中に入るの?」
私は驚いて和臣を見た。
「嫌か?」
嫌かというか·····、私はただ和臣に会いに来ただけだから。
「ううん、私、入ってもいいの?」
「·····いいよ。密葉は俺の女だからな」
和臣の女だから·····。
関わらせたくないと言った和臣、でも私の我儘でここに来た。
仕方がないと言った和臣は、やっぱり優しく私を抱き寄せる。
「みんなに紹介したい俺の我儘も、きいてくれよ」
呆れたように笑い、和臣は歩く。
和臣の我儘も··········。
本当は、和臣もみんなに私を紹介したかったってこと?
少し驚いて、ふふふっと笑いが漏れた。
そのまま和臣の顔を見続けると、和臣は少し顔を赤くした。「その顔、見慣れねぇ·····」と呟いた和臣は、何故か歩きながら顔を近づけてきて·····。
「おいおいおいおい!なんでフジが行ってんだよ。俺は辰巳を呼んだんだぞ、奈央と大人しめな女の子が来てる〜って! つーか、何し·····てん·····だ?」
ピタリと動きを止めた和臣は、面倒くさそうに再び顔をあげた。
「え?え·····、なんで奈央の女に、腕回してんだ?」
私達を見てビックリしている湊という男。それを聞いて和臣は、「何勘違いしてんだよ、奈央の女じゃねぇよ」と、低い声で呟いた。
さっき奈央に聞いてきて、否定したのに。
本当に勘違いしているらしく·····。
「え? じゃあその子なに?」
驚いて仕方がないという湊は、目をぱちくりさせていて。
「俺の女」
当たり前のように言う和臣。
「俺って·····、は?フジの?」
「そうだっつってんだろ」
「奈央、これドッキリか?」
「いえ、本当ですよ」
「え·····、は、はぁぁぁあああ!?!?!?」
ビクッとするぐらい大きい声を出した湊という男·····。その声のせいで、中にいる数十人の男女が驚いてこっちを向く。
「なんだ?」
「フジ君揉めてんの?」
「ってかあれ、辰巳君の弟じゃねぇ?」
ゾロゾロと、人が出てくる·····。
「フジ、お前っ、女いるって聞いてねぇぞ!!!」
大きすぎる声を出す男に、横にいる和臣は大きなため息をついた。
「フジ君の彼女?」
「え、マジ?」
「どこっ、あの子!? 」
どんどん騒がしくなる声に、私は不安になって和臣を見つめた。
本当に私はここに来ても良かったのかと。
「事務所いくぞ、奈央も来いよ」
「あ、いえ、俺用事あるので帰ります」
「そうなのか?悪かったな、送ってくれて」
「いえ」
「待て待てっ。話は終わってない!」
「うっせぇんだよお前は」
まるで引き寄せパンダのようだった。和臣と一緒に歩く度、見つめられる視線。
階段を登る時も、その視線は止まらない。
「和臣」
「ん?」
「すごく見られてるよ?」
「見られてんじゃねぇよ、見せてんだよ」
ニヤりと、子供のように笑った和臣は、私の頭にキスを落とした。
階段を登り、当たり前のようにノックもせず2個あるうちの、手前の方の部屋を開けた。
そこにいたのは、二度見た事のある辰巳君と。
まるで俳優·····、モデルをしてそうな男性と。
明るい髪をした、凄く美人な人と·····。
「あー!やっぱり密葉ちゃんだった!」
今日も可愛い和臣の妹である胡桃ちゃんがいた。
その部屋には、大きな黒色のソファが2つ置いてあった。その間に置いているテーブル。
奥には小さな冷蔵庫や、本棚。
それから日常生活において必要なものが置かれてあり。
「いやな?俺は辰巳を呼んだんだよ。弟が来てるぞ〜って。それから大人しそうな女の子もいるって!この辺のまでの黒髪に、ちょっとタメ目でさ?肌が白い、なんかこう、守ってあげたくなるような·····。あ、花のネックレスつけてたな!なあ、辰巳、辰巳の女か?って聞いたら、なんでかフジが飛び出してよ? 聞いたらフジの女だって言うじゃねぇか!!!!」
私をソファに座らせてくれた和臣は、「何か飲むか?」と、まるで湊さんの話を聞いてないようだった。
「え?そうなの?フジの!? マジ!?」
「本当ですよ実さんっ。家にも何回か来たことありますよ!」
「はあ?胡桃てめぇ知ってたのかよ!なんで言わなかったんだよ!」
「だってお兄ちゃんに口止めされてたんだもん!」
「何だと!? つーか、辰巳、なんで驚いてねぇんだ?····知ってたのか!お前も知ってたんだな!!」
「俺は知らなかったな、フジいつから付き合ってんだよ?」
「秋から」
「おいなんで大駕に返事するんだよ!つーだ秋!? 秋ってなんだ!今は冬だぞ!! もうすぐ春だぞ!!」
どこかで見た事のある光景だと思った。和臣は私の横に腰掛け、「お茶でいい?」と缶のお茶を私に渡してきて。
「ありがとう」
「いいよ」
「なあなあ、どこで会ったんだ?名前は?歳は?つーかどこ住んでんの?この辺?」
私、和臣、胡桃ちゃんがひとつのソファに座り。
もうひとつの大きめのソファに、辰巳君。そしてとても美人な人と、とてもかっこいい男性が座っていて。
座っていない人は湊さんだけで·····、そんな彼はずっと立っていて、「どうなんだよ?」と私の顔を覗き込んでくるもんだから、ビックリして和臣に寄り添った。
「ちけぇんだよ」
不機嫌な和臣は、湊さんに向かって足をあげ蹴るふりをする。
やっぱり見た事のある雰囲気·····。
初めて行った和臣の家の雰囲気にそっくりだと思った。よく喋るお母さんと、よく喋る湊さん·····。
駅から10数分ほど歩けば、住宅街から離れていき。どちらかと言えば、古びた工場地帯の方へと向かっていく。
歩く度に、バイクの音っていうのだろうか、ブロロロ·····っていう音が、耳に入ってきた。
「今日日曜日だし、そんなに人いないと思いますよ」
まず初めに、ずらりと並んでいるバイクが目に入った。広場のようになっているそこには、若い男女が喋ったりしていて。どちらかというと、男の人の方が圧倒的に多くて。
その奥には二階建てのような建物があった。
1階は倉庫のようで、シャッターが半分ほど開けられていて。
正面から見て左側に階段があり、その先には2つの扉があった。
「おおおっ、奈央じゃねぇか!久しぶりだな!!」
その時、すごく大きな声を出し、近づいてきた男が奈央君の名前を呼んだ。
「こんばんわ、湊君」
奈央君が軽く頭を下げる。
湊·····。
その名前は何度か聞き覚えがあった。
確か和臣は、湊という名前が出れば面倒くさいと··········。
「おっ、奈央の彼女か?すげぇ大人しそうな子だな!」
私に気づいた湊という男は、やっぱりテンション高く喋りかけてくる。
「違いますよ。湊君、すみませんが兄ちゃん呼んできてもらえませんか?」
「辰巳?」
「はい。お願いしていいですか?」
「なんか分かんねぇけど、分かった、辰巳な!」
やっぱりテンションの高い彼は、建物の方へ行き、2階へと続く階段へと足を向けた。
その場から動かない奈央君は、私を物陰へと連れていった。まるで、中にいる数人の男女に見せないように。
私と奈央君がここにいることを知っているのは湊という人だけということになるけど。
「中に入らないの?」
「はい。多分、湊君がフジ君を連れてくると思いますから」
和臣を?辰巳君ではなくて?
だってさっき、「兄ちゃんを呼んできて欲しい」って、奈央君が言ってたのに?
「それに俺がフジ君の彼女を、中に連れて行くわけには行かないから」
「え?」
「俺、そんな事したらフジ君にキレられるかもしれません」
キレられる?
奈央君が和臣に?
あの優しい和臣が?
「和臣が怒るの?」
「はい」
「どうして?」
「ホント言うと、こうしてここに連れてきただけでも怒られそうだから」
「でもそれは·····私が言ったから·····」
「そうだとしても、連れていくっていう判断をしたのは俺ですから」
和臣は言っていた。
私を暴走族に関わらせたくないと。
密葉は密葉のままでいてほしいと。
つまりは、私は今、和臣がしてほしくなかった事をしてるってこと。
暴走族に関わってほしくなかったから、和臣は私に何の話もしなかった。
暴走族という不良の世界に、私を巻き込みたくなかったから。
きっと、それは奈央君にも分かったんだ。
だからって、連れてきた奈央君が怒られるなんて·····。
私は奈央君が止めてきても、ずっと和臣を探し回ってた。きっと1人でもここに来ていたから。
「密葉っ!」
その時、大好きな人の声が、耳に届いた。
会いたくて会いたくて仕方が無かった存在。
和臣はここまで走ってきたのか、それほど遠い距離ではないけど、凄い勢いでダッシュしてしたのか息が乱れていた。
すごく驚いている和臣は·····。
「なんでっ」
「あの、和臣·····」
「なんでっ、なんでここに·····、奈央が連れてきたのか?」
そう言って、奈央の方を見た。
奈央は「はい」と、申し訳なさそうに呟き。
「どういう事だ」
私にじゃなく、奈央君に対して怒っているらしいは、少し低い声を出した。
「あの、和臣·····、私が連れてきてもらったの。たまたま会った奈央君に、無理言って連れてきてもらったの···。奈央君を責めないで」
私は、そう言って、和臣の服を掴んだ。
「密葉、何でだ?何で連絡しなかった? 俺、密葉が来ると思って連絡待ってたんだぞ」
「だって駅についたよって言えば、和臣は駅まで来たでしょう?」
「それは·····、密葉、道分かんねぇだろ?」
「うん、だから奈央君に連れてきてもらったんだよ」
私はそう言って、和臣に向かって笑いかけた。すると和臣は、一瞬動きを止めて·····。
「私が来たかったの、いつも和臣来てくれたみたいに、私から和臣に会いに行きたかった」
「·····密葉·····」
「本当は分かってるの、和臣、私をここに来させたく無かったんでしょう?」
「··········」
「私を巻き込ませたくなかったから」
「·····そ、うだけど·····」
「でも、来たかった。私、奈央君がダメって止めてても、ずっと和臣を探したよ」
「·········そうか」
「来たかったのは私の我儘。ごめんね」
「··········我儘?」
「うん」
「密葉が俺に?」
「うん」
「なら·····しょうがねぇな」
だって、私が我儘を言ったのは、侑李の世界を創ってから初めてのことだから。
それを和臣は分かっていたから。
「そんな顔で言われたら、怒るに怒れねぇよ」
和臣が呆れたように笑う。
「そんな顔?」
そう問いかける私の肩に腕をまわした。そのまま和臣が優しく引き寄せる。
「笑った顔、すげぇ可愛いって言ったんだよ」
奈央君に聞こえないように、和臣は優しく呟き·····。
「奈央、連れてきてくれてありがとうな」
「あ、いえ·····」
和臣はそのまま肩を抱き、中へと入ろうとする。
「え?中に入るの?」
私は驚いて和臣を見た。
「嫌か?」
嫌かというか·····、私はただ和臣に会いに来ただけだから。
「ううん、私、入ってもいいの?」
「·····いいよ。密葉は俺の女だからな」
和臣の女だから·····。
関わらせたくないと言った和臣、でも私の我儘でここに来た。
仕方がないと言った和臣は、やっぱり優しく私を抱き寄せる。
「みんなに紹介したい俺の我儘も、きいてくれよ」
呆れたように笑い、和臣は歩く。
和臣の我儘も··········。
本当は、和臣もみんなに私を紹介したかったってこと?
少し驚いて、ふふふっと笑いが漏れた。
そのまま和臣の顔を見続けると、和臣は少し顔を赤くした。「その顔、見慣れねぇ·····」と呟いた和臣は、何故か歩きながら顔を近づけてきて·····。
「おいおいおいおい!なんでフジが行ってんだよ。俺は辰巳を呼んだんだぞ、奈央と大人しめな女の子が来てる〜って! つーか、何し·····てん·····だ?」
ピタリと動きを止めた和臣は、面倒くさそうに再び顔をあげた。
「え?え·····、なんで奈央の女に、腕回してんだ?」
私達を見てビックリしている湊という男。それを聞いて和臣は、「何勘違いしてんだよ、奈央の女じゃねぇよ」と、低い声で呟いた。
さっき奈央に聞いてきて、否定したのに。
本当に勘違いしているらしく·····。
「え? じゃあその子なに?」
驚いて仕方がないという湊は、目をぱちくりさせていて。
「俺の女」
当たり前のように言う和臣。
「俺って·····、は?フジの?」
「そうだっつってんだろ」
「奈央、これドッキリか?」
「いえ、本当ですよ」
「え·····、は、はぁぁぁあああ!?!?!?」
ビクッとするぐらい大きい声を出した湊という男·····。その声のせいで、中にいる数十人の男女が驚いてこっちを向く。
「なんだ?」
「フジ君揉めてんの?」
「ってかあれ、辰巳君の弟じゃねぇ?」
ゾロゾロと、人が出てくる·····。
「フジ、お前っ、女いるって聞いてねぇぞ!!!」
大きすぎる声を出す男に、横にいる和臣は大きなため息をついた。
「フジ君の彼女?」
「え、マジ?」
「どこっ、あの子!? 」
どんどん騒がしくなる声に、私は不安になって和臣を見つめた。
本当に私はここに来ても良かったのかと。
「事務所いくぞ、奈央も来いよ」
「あ、いえ、俺用事あるので帰ります」
「そうなのか?悪かったな、送ってくれて」
「いえ」
「待て待てっ。話は終わってない!」
「うっせぇんだよお前は」
まるで引き寄せパンダのようだった。和臣と一緒に歩く度、見つめられる視線。
階段を登る時も、その視線は止まらない。
「和臣」
「ん?」
「すごく見られてるよ?」
「見られてんじゃねぇよ、見せてんだよ」
ニヤりと、子供のように笑った和臣は、私の頭にキスを落とした。
階段を登り、当たり前のようにノックもせず2個あるうちの、手前の方の部屋を開けた。
そこにいたのは、二度見た事のある辰巳君と。
まるで俳優·····、モデルをしてそうな男性と。
明るい髪をした、凄く美人な人と·····。
「あー!やっぱり密葉ちゃんだった!」
今日も可愛い和臣の妹である胡桃ちゃんがいた。
その部屋には、大きな黒色のソファが2つ置いてあった。その間に置いているテーブル。
奥には小さな冷蔵庫や、本棚。
それから日常生活において必要なものが置かれてあり。
「いやな?俺は辰巳を呼んだんだよ。弟が来てるぞ〜って。それから大人しそうな女の子もいるって!この辺のまでの黒髪に、ちょっとタメ目でさ?肌が白い、なんかこう、守ってあげたくなるような·····。あ、花のネックレスつけてたな!なあ、辰巳、辰巳の女か?って聞いたら、なんでかフジが飛び出してよ? 聞いたらフジの女だって言うじゃねぇか!!!!」
私をソファに座らせてくれた和臣は、「何か飲むか?」と、まるで湊さんの話を聞いてないようだった。
「え?そうなの?フジの!? マジ!?」
「本当ですよ実さんっ。家にも何回か来たことありますよ!」
「はあ?胡桃てめぇ知ってたのかよ!なんで言わなかったんだよ!」
「だってお兄ちゃんに口止めされてたんだもん!」
「何だと!? つーか、辰巳、なんで驚いてねぇんだ?····知ってたのか!お前も知ってたんだな!!」
「俺は知らなかったな、フジいつから付き合ってんだよ?」
「秋から」
「おいなんで大駕に返事するんだよ!つーだ秋!? 秋ってなんだ!今は冬だぞ!! もうすぐ春だぞ!!」
どこかで見た事のある光景だと思った。和臣は私の横に腰掛け、「お茶でいい?」と缶のお茶を私に渡してきて。
「ありがとう」
「いいよ」
「なあなあ、どこで会ったんだ?名前は?歳は?つーかどこ住んでんの?この辺?」
私、和臣、胡桃ちゃんがひとつのソファに座り。
もうひとつの大きめのソファに、辰巳君。そしてとても美人な人と、とてもかっこいい男性が座っていて。
座っていない人は湊さんだけで·····、そんな彼はずっと立っていて、「どうなんだよ?」と私の顔を覗き込んでくるもんだから、ビックリして和臣に寄り添った。
「ちけぇんだよ」
不機嫌な和臣は、湊さんに向かって足をあげ蹴るふりをする。
やっぱり見た事のある雰囲気·····。
初めて行った和臣の家の雰囲気にそっくりだと思った。よく喋るお母さんと、よく喋る湊さん·····。