毎日和臣とは電話をする。
私が侑李と会っている時間以外に電話をくれる和臣。

会うのは土曜日の午前中か、日曜日の午前中のどちらかになっていた。会うのは和臣の家か、私の家。


和臣は二人きりになった途端抱きしめてくる。私はその行為がとても嬉しかった。



日曜日の朝、私がベットを背もたれに座布団の上に座り、和臣は私の足を枕に横になっていた。
少し眠そうな和臣は、「ちょっと横になっていい?」と、私を思う存分抱きしめたあと聞いてきたから。


「寝てないの?」

私はそう言って、ベットの上からブランケットを取った。

「ん·····」

それを和臣にかぶせる。
私のお腹の方へ顔を埋める和臣の耳には、黒石のピアスがキラリと光っていて。


「寝ていいよ」

私はそう言って、いつも和臣が私にしてくれるように、髪の毛を流すように和臣の頭を撫でた。


「それ、しててくれよ·····」

「それ?」

「気持ちいい·····」


頭を撫でること?
私は笑って、「いいよ」と返事をして手を動かした。


「すげぇ落ち着く·····」

「ほんと?」

「ん·····、密葉の傍が1番落ち着く·····」


私の傍?
そう言われると、凄く嬉しい。
私も和臣のそばに居ると落ち着くから。和臣が私に安心感を持っていてくれる。


「あんまり普段、落ち着かないの?」


私と会わない和臣は、普段·····。·········そうか、暴走族で·····。


「·····落ち着かないってわけじゃねぇけど、やっぱり気張る」

「気?」

「誰かが怪我したとか、しょっぴかれたとか·····、そういう伝達·····いつ来るか分かんねぇから·····」

「そうなの·····」

「ん·····、他も色々うるせぇのがいるから·····」

「うん」

「·····わりぃ·····、密葉に愚痴ったな·····」


和臣の目がうっすらと開く。


「·····いいよ、何でも聞くよ」

「うん·····、やっぱ密葉が落ち着くわ·····、今日も早く会えてぇって思ってた」

「うん·····」


また瞼を閉じた和臣は、しばらくしてスーー·····っと寝息を出し始めた。

寝ている和臣を見るのは、初めてだった。


そこから私はずっと、和臣の寝顔を見つめながら頭を撫でていた。いつもありがとうと思いをこめて。


30分程がたった時、私のスマホではない着信音が部屋に響いた。間違いなく和臣のスマホで。

和臣のスマホと財布と、鍵は小さいテーブルの上に置いてあった。そこに目を向ければ、画面が光っていて。

和臣はその音に、すぐ目を開いた。


私の顔をみた和臣は、「·····誰から鳴ってる?」と、また目を閉じた。


「見てもいいの?」

「うん」

私は手を伸ばし、和臣のスマホを手に取った。そこには 『湊』と映されていて。


「みなと·····?って書いてある」

「分かった·····」

「出ないの?」

「ん、·····いつもの面倒くさい電話」


面倒くさい電話·····。
そう言いながら、瞼を閉じる。


何度か聞いたことのある「湊」という名前。

出ないうちに、着信音が切れて。

それから1分ほどすれば、また着信音が流れた。


「·····和臣」

「また湊?」

「ううん、辰巳君の名前·····」

「辰巳?」


再び目を開いた和臣は、「貸して」と私から携帯を受け取った。

湊って言う人の電話は出なくて、辰巳君の電話は出るらしく。


「····どうした?」

少しだけ低い和臣の声。
あんまり私の聞いたことの無い声で。



「今?密葉んとこ·····、·····ああ、···················、それで大駕は?」


大きなため息を出す。


「分かった·····、また夜に話聞く。····ああ··········、聞こえてる·····、········頼むわ·····」


通話を切った和臣は、「置いといて」と、私にスマホを渡した。



「何かあったの?」

「·····みたいだな··········」

「行かなくてもいいの?」

「いいよ、辰巳がいる。あいつなら任せられるから·····」



辰巳君に投げ飛ばされて、骨折した和臣。
そんな和臣が、辰巳君を頼りにしていて。

「そっか·····」


そんなふうに思われている辰巳君が、少し羨ましいと思った。


クリスマスよりも前、和臣は私に「やりたい」と言ったことがある。けれどもその後、「好きすぎて手が出せない」と呆れたように呟いていて。


和臣はスキンシップが多い気がする。
今もこうして、私のお腹に顔を埋めて眠っているし。
私の事を沢山抱きしめてくれて·····。
甘くて深いキスもしてくる。

けれどもそれ以外は手を出してこない。



もしかすると、和臣はそういう行為に対してあまり興味がないのかもしれない。私が初めての彼女ということは、和臣も多分、した事がなく。

でも、「やりたい」といった和臣·····。


「しないの?」と、聞けば私がやる気満々な気がして、恥ずかしくて言えなかった。



「··········今、何時?」

私の足を枕にしていた和臣が起きたらしく、ぎゅっと、これでもかっていうぐらい引っ付いてきて。


「10時半だよ、もうちょっと寝てても大丈夫だよ」


そっと和臣の腕あたりに手を置いた。
服越しでも分かる筋肉のある男の人の腕·····。それに対してドキドキしてしまう。


「密葉·····」

「ん?なに?」

「いや、好きだなって思っただけ·····」






嬉しいことをこうも口にする和臣が、2月9日の日の夜、私の家の前まで来てくれた。

「誕生日おめでとう」と。

小さな可愛い花束と、花をモチーフにしたイヤリングのプレゼントを持って。
イヤリングは、クリスマスプレゼントに貰ったものとお揃いだった。


私は、泣いて喜んだ。


侑李の体調も最近良くて、和臣からはこんなにも大きな幸せをくれて。





でも、こんな幸せは長く続くことは無く。


私は、また壊れてしまった。


··········和臣の事を、信じきれなかった。