ある土曜日の午前中。侑李の面会時間が14時からだから、それまでにと和臣に連れられて来た場所。
綺麗な花が咲いている花壇は、きちんと手入れされているのは一目瞭然で。可愛いオレンジ系統の淡いお家。
どちらかというと私の家は、ダークブラウンがメインのシックな家。今目の前にある家とは、真逆だと思った。
可愛らしいお家の玄関には、可愛い猫の置物があった。
「ほんとはもっと早く連れてきたかったんだけど」
和臣のお母さんが仕事だったり、何かと都合が悪くて。
私は手土産で持ってきたケーキの箱の入った袋を、震える手でぎゅっと掴んだ。
「一応今日は家にいて欲しいっていうのは伝えてるけど、俺の彼女が来るっていうのは言ってない。言ったら言ったで、たぶん今日よりもっと大事(おおごと)になるだろうから·····」
「大事?」
「うん、まあ·····、会えば分かると思う·····」
「そうなんだ·····」
「密葉?」
「あ·····、ごめんなさい、緊張して·····」
「大丈夫だよ」
和臣は安心させるように、手を繋ぐ。
「失礼な態度とっちゃったらどうしよう·····」
「そのまんまでいい」
でも、嫌われたりしたら?
反対されたらどうしようって。
「何喋ったらいいか·····」
「いいって、そういうの必要ねぇから」
必要ない?
考えることを?
それはそれでどうかと思うけど。
「マジでうるせぇから·····、逆に俺は密葉がイヤになるんじゃないかって心配だよ」
ゲンナリとした声を出す和臣。
「けど、不安になる気持ちは分かるから。密葉は密葉のままでいい。大丈夫だよ」
「·····うん」
「開けるぞ?」
和臣が優しく聞いてきて、私は「·····うん」と小さく頷いた。
それを確認した和臣は、扉の取手に手をかけた。ゆっくりと茶色い玄関の扉が開かれる。
可愛いらしい外見のお家は、中もすごく可愛かった。
玄関には、花が飾られていた。
そのおかげか、玄関にとても花のいい香りがして。
きちんと並べられている靴。
玄関に飾られている写真立ての中には、和臣らしい人物も写ってて。和臣らしいって思ったのは、今よりもずっと幼い頃の写真だから。
玄関のシャンデリアも、とてもオシャレな·····。
本当に、私の家とは真逆·····。
「ただいまー」
和臣その言葉を聞いて、本当にここは和臣の家なんだと実感した。
「靴、脱げる?」
「あ·····うん」
雰囲気のせいかもしれないけど、こんなにも可愛いらしい家に、和臣がいるなんて少し違和感を覚えた。
黒い髪と、瞳が似合っている硬派な男。
どちらかといえば、和臣は黒が好きなシックなイメージがあったから·····。
踏み出す1歩が怖くて、和臣にもう一度「大丈夫だよ」って言われた時、ガチャっと扉が開く音が聞こえた。
開かれたのは、位置と見た目からしてリビングに繋がる扉で····。
「ちょっとお兄ちゃん!家にいろって言ったくせに、本人がいないってどういうことよっ!あたし美容室行きたい·····ん··········だけど·····?」
そこから出てきたのは、スラッと足が長く、細くて綺麗な女の子だった。長い髪は綺麗な茶金に染められていて、とても大きな瞳を持った可愛すぎる子で。
和臣の事を「お兄ちゃん」と言った彼女は、和臣の妹さんで·····。
「え·····?··········え?········だ、·······だれ?」
和臣の横にいる私を見た途端、大きな瞳をぱちくりしてる彼女は、すごく驚いていて。
「彼女」
当たり前のように返事をする和臣。
「え?··········誰の?」
「俺の」
「え?·····ま、マジ·····?」
「マジだって、胡桃(くるみ)、母さんは·····」
「お母ぁさーーーーん!!!!!!!お兄ちゃんが女の子連れてきたぁーーー!!!!!」
急いで走ってリビングに戻っていく妹さんは、近所な響き渡るような大きな声を出して。
びっくりした私は、声ひとつ出すことが出来ず。
「嘘でしょっ!?」
「マジだって!!」
「え?! 本当に!?」
「ホントだってば!! お兄ちゃんが「彼女」って言ってたもん!!!」
「彼女!?」
リビングの中からは、お母さんらしき声と、さっきの妹さんの声が聞こえてきて。
隣にいる和臣を見れば、「予想通りだよ」と呆れた声を出した。
勢いよく開かれるリビングの扉からは、和臣の母親らしい人が、妹さんと出てきて。
ふわふわとした、この家にぴったりな瞳の大きい女性だった。少し小柄な和臣のお母さんは、「本当に女の子連れてきてる!!」と、私を見て驚く。
「でしょ!! 言ったでしょ!!」
「こんな可愛い子·····っ、ちょっと和臣!何で連れてくるって言わないのっ」
「そうだよ!ってか彼女いるって知らないし!何で教えてくんなかったのよ!!」
お母さんは、和臣の背中を小さい手でバシバシ叩いていて。
「言ったら写真見せろとか、連れて来いとか言うだろ·····」
「ほんとにこの子はっ·····いきなりすぎるのよ!」
「ほんとそう!ってかどこの子?お兄ちゃんの学校·····では無いよね·····」
「名前なんて言うの?何ちゃん?」
お母さんの目が、私に向けられる。
「密葉だよ。母さん、俺ら·····」
「あんたに聞いてないのよっ、密葉ちゃんていうの!可愛い名前!あっ、ごめんなさいねこんな所で。さっ、あがって?」
靴の棚から花柄のスリッパを取り出した和臣のお母さんは、「どうぞどうぞ」と、可愛らしい笑顔を向けてくれて·····。
お母さんと妹さんの勢いで、なにも喋れない私。
リビングに戻ったお母さんは、「ちょっとお父さんっ、起きて!和臣が女の子連れてきたよ!」っと、すごくテンションが高くて。
「いつまで玄関にいるのっ、こっちいらっしゃい!お父さん起きてってば!」
隣にいる和臣を見れば、「な、うっせぇだろ?」と、呆れた様子だった。
うるさいとは思わないけど、勢いに圧倒されたのは事実で。
「マジでそんな緊張しなくていい。いつもあーいう感じだから。なあ、胡桃」
「え?お母さんのこと?そうだね·····、ってかほんとどこの子?見たことない·····」
「どこだっていいだろ」
「ちょっと!!まだ玄関にいるの!?」
和臣に「いいよ、靴ぬいで。ちょっとしたら部屋行くし。マジで大丈夫だから」と言われ。
私は「お邪魔します··········」と、靴を脱ぎ、靴を端の方へ揃えた。
まだ緊張する。
和臣に連れられ、リビングに行けば、可愛らしい花柄や、オレンジ系統のカーテンや、茶色い淡いソファが置いてあり。
そこのソファには、男性と、男性のお腹には丸まって寝ている猫がいて·····。
「お父さんたら、ほんと起きないのっ」
怒っている和臣のお母さん。
あんなにも起こしていたのに、起きない和臣のお父さん。
お父さんが寝てるのにリビングの中へ入ってもいいか戸惑っていると、和臣のお母さんは優しい笑顔を向けてくれた。
「いいのよ、気にしないで。いつもあんな感じだから。それよりっ紅茶入れるわね!密葉ちゃん何が好き?アールグレイ?ジャスミンもあるのよ?あ、コーヒーの方がいいかしら?密葉ちゃんコーヒー飲める?ブラック?ミルク入れる?砂糖も。それならカフェオレの方がいいかしら?」
えっと·····。
「そんな沢山言っても分かんねぇだろ、普通の紅茶でいいよ」
和臣が代わりに答えてくれて。
戸惑う私は、何も言えなくて。
「洋菓子か何かあったかしら·····、お父さんのオカキがあったけど·····、紅茶には合わないわよねぇ」
その時、和臣が私の腕を少しかすめた。
どうしたの?と、顔を向ければ、和臣が私の手に持っているものへ目線を向けて。
「大丈夫だから」
私にだけ聞こえるように呟く。
大丈夫·····。
そうだ、私には和臣がいるんだから。
しっかりしなきゃ。
いつまでも、緊張してちゃ、なにも始まらないから。
「あ、あの·····」
恐る恐る和臣のお母さんに声をかければ、お母さんは「え?」と、可愛らしい顔をこちらに向けて。
「私、山崎密葉と言います·····」
緊張して声が震える。
「今日は、忙しいのにお邪魔してすみません」
ちゃんと私は言えているのか。
「これ·····、良かったら皆さんで食べてください」
ケーキの箱が入った袋を差し出す。手が緊張して震える。
これでいいのか、本当に分からない·····。
「ありがとう、密葉ちゃん」
優しく、穏やかな雰囲気をもつ和臣のお母さんは、和臣と似ていると思った。
「ゆっくりしていってね」
和臣には、ふわふわとした雰囲気はないけれど。優しく笑う所とか、ああ、親子だなぁ·····って。
「ありがとうございます·····」
「あたし、ここのケーキ大好きなのよ」
本当に嬉しそうに笑う和臣のお母さんを見て、私も笑っていた。
想像どおりの、温かい家庭だと感じた。
「もう部屋に行くから」と和臣は言ったけど、「あんただけ行っていいわよ、私は密葉ちゃんとお茶するから」と笑顔で言われ。
本当に、和臣の強引さは、母親譲りなのだと分かった。
「いつから付き合ってるの?」
「同い年なの?」
「おうちはこの辺り?」
「優しくしてくれてる?この子、口悪いでしょう?」
など、色んな質問をされて。
妹さんからも「どっちから告ったの!?」と、すごくテンションが高くて。
和臣は「言わねぇよ馬鹿じゃねぇの」と、何度も言ったような気がする。
「··········んー、なんだぁ、お客さんかあ?」
質問攻めが始まって小一時間がたったころ、和臣のお父さんがソファから起き上がった。
私を見て、「初めて見るなあ、胡桃の友達か?」と、妹さんの名前を出し。
「和臣の彼女よ」
「·····彼女?誰の?」
「和臣の」
「··········こいつの?」
「もう、何回も起こしたのに起きないんだから。ねぇ?」
「·····そうか、和臣の·····」
和臣のお父さんは、見た目は落ち着いた雰囲気で、和臣と何となく似ていた。
和臣の外見は、どうやら父親譲りみたいで。
「お、お邪魔しています·····、すみません、おやすみ中に··········」
私は和臣のお父さんに、頭を下げた。
「·····ああ、こんにちは。なんか照れるな」
「お父さんが照れてどうすんのよ」
和臣のお母さんが呆れたように笑った。
笑っているお父さんは、やっぱり和臣に似ていて。
和臣がどうしてこういう性格なのか、分かった気がした。
「悪ぃな、時間大丈夫か?」
結局、あの後は和臣のお父さんからも話に加わり、もう11時近くになっていて。
和臣の部屋に向かっている階段の途中で、和臣は心配そうに聞いてくる。
「うん、でもあと30分ぐらいで出ないと·····」
「分かった。マジでごめんな、しつこかっただろ?」
「ううん、そんなことなかったよ」
和臣がこうして育ったんだって知れて、嬉しかったから。
「それなら良かったのか? 」
呆れて笑う和臣は、「どーぞ」と、階段を登り、3つ扉があるうちの、1番奥の扉をあけた。
片付けられている部屋·····。
和臣の部屋は、モノトーン系が多くて。
ベットの上にある布団は黒、カーテンは少し薄い灰色。
小さなテーブルや棚は黒色と、黒が多い部屋みたいで。
和臣に合っている部屋だと思った。
布団の上には、ど真ん中で、ちょうどカーテンの隙間から零れる日差しに当たるように気持ちよさそうに寝転がっている白い色の猫がいて。
思わず笑みが零れた。
「こーら、おりろ」
和臣はベットに近づき、猫の頭を撫でれば、うっすらと目を開けたけど、動く気配はなく。
「名前なんていうの?」
「ココ。オスだけどな」
和臣はベットに座り、ココを撫で続けて。
「密葉、おいで」
立ったままの私を呼ぶ。
言われた通りに近づけば、ココを撫でる手を辞めた和臣に引き寄せられた。
「緊張した?」
「うん」
「ごめんな、本当なら俺が先に密葉の両親に挨拶しようと思ってたけど··」
「仕方ないよ。お母さん達帰ってきてもすぐに仕事に戻るから·····。私、和臣の両親に会えて良かったよ」
「うん·····、それなら良かった·····」
なんだか、こうして二人っきりになるのが、久しぶりな気がする。
つい数時間前までは、2人でバイクに乗っていたのに。
「密葉··········」
「·····ん?」
「·····キスしてぇ·····」
「うん···」
「好きすぎて、マジでおかしくなりそうな時がある·····」
好きすぎて·····。
「うん·····」
「重症だな·····」
座っている和臣に対して、私は立っているから。
引き寄せる和臣に、私は唇を重ねた。
綺麗な花が咲いている花壇は、きちんと手入れされているのは一目瞭然で。可愛いオレンジ系統の淡いお家。
どちらかというと私の家は、ダークブラウンがメインのシックな家。今目の前にある家とは、真逆だと思った。
可愛らしいお家の玄関には、可愛い猫の置物があった。
「ほんとはもっと早く連れてきたかったんだけど」
和臣のお母さんが仕事だったり、何かと都合が悪くて。
私は手土産で持ってきたケーキの箱の入った袋を、震える手でぎゅっと掴んだ。
「一応今日は家にいて欲しいっていうのは伝えてるけど、俺の彼女が来るっていうのは言ってない。言ったら言ったで、たぶん今日よりもっと大事(おおごと)になるだろうから·····」
「大事?」
「うん、まあ·····、会えば分かると思う·····」
「そうなんだ·····」
「密葉?」
「あ·····、ごめんなさい、緊張して·····」
「大丈夫だよ」
和臣は安心させるように、手を繋ぐ。
「失礼な態度とっちゃったらどうしよう·····」
「そのまんまでいい」
でも、嫌われたりしたら?
反対されたらどうしようって。
「何喋ったらいいか·····」
「いいって、そういうの必要ねぇから」
必要ない?
考えることを?
それはそれでどうかと思うけど。
「マジでうるせぇから·····、逆に俺は密葉がイヤになるんじゃないかって心配だよ」
ゲンナリとした声を出す和臣。
「けど、不安になる気持ちは分かるから。密葉は密葉のままでいい。大丈夫だよ」
「·····うん」
「開けるぞ?」
和臣が優しく聞いてきて、私は「·····うん」と小さく頷いた。
それを確認した和臣は、扉の取手に手をかけた。ゆっくりと茶色い玄関の扉が開かれる。
可愛いらしい外見のお家は、中もすごく可愛かった。
玄関には、花が飾られていた。
そのおかげか、玄関にとても花のいい香りがして。
きちんと並べられている靴。
玄関に飾られている写真立ての中には、和臣らしい人物も写ってて。和臣らしいって思ったのは、今よりもずっと幼い頃の写真だから。
玄関のシャンデリアも、とてもオシャレな·····。
本当に、私の家とは真逆·····。
「ただいまー」
和臣その言葉を聞いて、本当にここは和臣の家なんだと実感した。
「靴、脱げる?」
「あ·····うん」
雰囲気のせいかもしれないけど、こんなにも可愛いらしい家に、和臣がいるなんて少し違和感を覚えた。
黒い髪と、瞳が似合っている硬派な男。
どちらかといえば、和臣は黒が好きなシックなイメージがあったから·····。
踏み出す1歩が怖くて、和臣にもう一度「大丈夫だよ」って言われた時、ガチャっと扉が開く音が聞こえた。
開かれたのは、位置と見た目からしてリビングに繋がる扉で····。
「ちょっとお兄ちゃん!家にいろって言ったくせに、本人がいないってどういうことよっ!あたし美容室行きたい·····ん··········だけど·····?」
そこから出てきたのは、スラッと足が長く、細くて綺麗な女の子だった。長い髪は綺麗な茶金に染められていて、とても大きな瞳を持った可愛すぎる子で。
和臣の事を「お兄ちゃん」と言った彼女は、和臣の妹さんで·····。
「え·····?··········え?········だ、·······だれ?」
和臣の横にいる私を見た途端、大きな瞳をぱちくりしてる彼女は、すごく驚いていて。
「彼女」
当たり前のように返事をする和臣。
「え?··········誰の?」
「俺の」
「え?·····ま、マジ·····?」
「マジだって、胡桃(くるみ)、母さんは·····」
「お母ぁさーーーーん!!!!!!!お兄ちゃんが女の子連れてきたぁーーー!!!!!」
急いで走ってリビングに戻っていく妹さんは、近所な響き渡るような大きな声を出して。
びっくりした私は、声ひとつ出すことが出来ず。
「嘘でしょっ!?」
「マジだって!!」
「え?! 本当に!?」
「ホントだってば!! お兄ちゃんが「彼女」って言ってたもん!!!」
「彼女!?」
リビングの中からは、お母さんらしき声と、さっきの妹さんの声が聞こえてきて。
隣にいる和臣を見れば、「予想通りだよ」と呆れた声を出した。
勢いよく開かれるリビングの扉からは、和臣の母親らしい人が、妹さんと出てきて。
ふわふわとした、この家にぴったりな瞳の大きい女性だった。少し小柄な和臣のお母さんは、「本当に女の子連れてきてる!!」と、私を見て驚く。
「でしょ!! 言ったでしょ!!」
「こんな可愛い子·····っ、ちょっと和臣!何で連れてくるって言わないのっ」
「そうだよ!ってか彼女いるって知らないし!何で教えてくんなかったのよ!!」
お母さんは、和臣の背中を小さい手でバシバシ叩いていて。
「言ったら写真見せろとか、連れて来いとか言うだろ·····」
「ほんとにこの子はっ·····いきなりすぎるのよ!」
「ほんとそう!ってかどこの子?お兄ちゃんの学校·····では無いよね·····」
「名前なんて言うの?何ちゃん?」
お母さんの目が、私に向けられる。
「密葉だよ。母さん、俺ら·····」
「あんたに聞いてないのよっ、密葉ちゃんていうの!可愛い名前!あっ、ごめんなさいねこんな所で。さっ、あがって?」
靴の棚から花柄のスリッパを取り出した和臣のお母さんは、「どうぞどうぞ」と、可愛らしい笑顔を向けてくれて·····。
お母さんと妹さんの勢いで、なにも喋れない私。
リビングに戻ったお母さんは、「ちょっとお父さんっ、起きて!和臣が女の子連れてきたよ!」っと、すごくテンションが高くて。
「いつまで玄関にいるのっ、こっちいらっしゃい!お父さん起きてってば!」
隣にいる和臣を見れば、「な、うっせぇだろ?」と、呆れた様子だった。
うるさいとは思わないけど、勢いに圧倒されたのは事実で。
「マジでそんな緊張しなくていい。いつもあーいう感じだから。なあ、胡桃」
「え?お母さんのこと?そうだね·····、ってかほんとどこの子?見たことない·····」
「どこだっていいだろ」
「ちょっと!!まだ玄関にいるの!?」
和臣に「いいよ、靴ぬいで。ちょっとしたら部屋行くし。マジで大丈夫だから」と言われ。
私は「お邪魔します··········」と、靴を脱ぎ、靴を端の方へ揃えた。
まだ緊張する。
和臣に連れられ、リビングに行けば、可愛らしい花柄や、オレンジ系統のカーテンや、茶色い淡いソファが置いてあり。
そこのソファには、男性と、男性のお腹には丸まって寝ている猫がいて·····。
「お父さんたら、ほんと起きないのっ」
怒っている和臣のお母さん。
あんなにも起こしていたのに、起きない和臣のお父さん。
お父さんが寝てるのにリビングの中へ入ってもいいか戸惑っていると、和臣のお母さんは優しい笑顔を向けてくれた。
「いいのよ、気にしないで。いつもあんな感じだから。それよりっ紅茶入れるわね!密葉ちゃん何が好き?アールグレイ?ジャスミンもあるのよ?あ、コーヒーの方がいいかしら?密葉ちゃんコーヒー飲める?ブラック?ミルク入れる?砂糖も。それならカフェオレの方がいいかしら?」
えっと·····。
「そんな沢山言っても分かんねぇだろ、普通の紅茶でいいよ」
和臣が代わりに答えてくれて。
戸惑う私は、何も言えなくて。
「洋菓子か何かあったかしら·····、お父さんのオカキがあったけど·····、紅茶には合わないわよねぇ」
その時、和臣が私の腕を少しかすめた。
どうしたの?と、顔を向ければ、和臣が私の手に持っているものへ目線を向けて。
「大丈夫だから」
私にだけ聞こえるように呟く。
大丈夫·····。
そうだ、私には和臣がいるんだから。
しっかりしなきゃ。
いつまでも、緊張してちゃ、なにも始まらないから。
「あ、あの·····」
恐る恐る和臣のお母さんに声をかければ、お母さんは「え?」と、可愛らしい顔をこちらに向けて。
「私、山崎密葉と言います·····」
緊張して声が震える。
「今日は、忙しいのにお邪魔してすみません」
ちゃんと私は言えているのか。
「これ·····、良かったら皆さんで食べてください」
ケーキの箱が入った袋を差し出す。手が緊張して震える。
これでいいのか、本当に分からない·····。
「ありがとう、密葉ちゃん」
優しく、穏やかな雰囲気をもつ和臣のお母さんは、和臣と似ていると思った。
「ゆっくりしていってね」
和臣には、ふわふわとした雰囲気はないけれど。優しく笑う所とか、ああ、親子だなぁ·····って。
「ありがとうございます·····」
「あたし、ここのケーキ大好きなのよ」
本当に嬉しそうに笑う和臣のお母さんを見て、私も笑っていた。
想像どおりの、温かい家庭だと感じた。
「もう部屋に行くから」と和臣は言ったけど、「あんただけ行っていいわよ、私は密葉ちゃんとお茶するから」と笑顔で言われ。
本当に、和臣の強引さは、母親譲りなのだと分かった。
「いつから付き合ってるの?」
「同い年なの?」
「おうちはこの辺り?」
「優しくしてくれてる?この子、口悪いでしょう?」
など、色んな質問をされて。
妹さんからも「どっちから告ったの!?」と、すごくテンションが高くて。
和臣は「言わねぇよ馬鹿じゃねぇの」と、何度も言ったような気がする。
「··········んー、なんだぁ、お客さんかあ?」
質問攻めが始まって小一時間がたったころ、和臣のお父さんがソファから起き上がった。
私を見て、「初めて見るなあ、胡桃の友達か?」と、妹さんの名前を出し。
「和臣の彼女よ」
「·····彼女?誰の?」
「和臣の」
「··········こいつの?」
「もう、何回も起こしたのに起きないんだから。ねぇ?」
「·····そうか、和臣の·····」
和臣のお父さんは、見た目は落ち着いた雰囲気で、和臣と何となく似ていた。
和臣の外見は、どうやら父親譲りみたいで。
「お、お邪魔しています·····、すみません、おやすみ中に··········」
私は和臣のお父さんに、頭を下げた。
「·····ああ、こんにちは。なんか照れるな」
「お父さんが照れてどうすんのよ」
和臣のお母さんが呆れたように笑った。
笑っているお父さんは、やっぱり和臣に似ていて。
和臣がどうしてこういう性格なのか、分かった気がした。
「悪ぃな、時間大丈夫か?」
結局、あの後は和臣のお父さんからも話に加わり、もう11時近くになっていて。
和臣の部屋に向かっている階段の途中で、和臣は心配そうに聞いてくる。
「うん、でもあと30分ぐらいで出ないと·····」
「分かった。マジでごめんな、しつこかっただろ?」
「ううん、そんなことなかったよ」
和臣がこうして育ったんだって知れて、嬉しかったから。
「それなら良かったのか? 」
呆れて笑う和臣は、「どーぞ」と、階段を登り、3つ扉があるうちの、1番奥の扉をあけた。
片付けられている部屋·····。
和臣の部屋は、モノトーン系が多くて。
ベットの上にある布団は黒、カーテンは少し薄い灰色。
小さなテーブルや棚は黒色と、黒が多い部屋みたいで。
和臣に合っている部屋だと思った。
布団の上には、ど真ん中で、ちょうどカーテンの隙間から零れる日差しに当たるように気持ちよさそうに寝転がっている白い色の猫がいて。
思わず笑みが零れた。
「こーら、おりろ」
和臣はベットに近づき、猫の頭を撫でれば、うっすらと目を開けたけど、動く気配はなく。
「名前なんていうの?」
「ココ。オスだけどな」
和臣はベットに座り、ココを撫で続けて。
「密葉、おいで」
立ったままの私を呼ぶ。
言われた通りに近づけば、ココを撫でる手を辞めた和臣に引き寄せられた。
「緊張した?」
「うん」
「ごめんな、本当なら俺が先に密葉の両親に挨拶しようと思ってたけど··」
「仕方ないよ。お母さん達帰ってきてもすぐに仕事に戻るから·····。私、和臣の両親に会えて良かったよ」
「うん·····、それなら良かった·····」
なんだか、こうして二人っきりになるのが、久しぶりな気がする。
つい数時間前までは、2人でバイクに乗っていたのに。
「密葉··········」
「·····ん?」
「·····キスしてぇ·····」
「うん···」
「好きすぎて、マジでおかしくなりそうな時がある·····」
好きすぎて·····。
「うん·····」
「重症だな·····」
座っている和臣に対して、私は立っているから。
引き寄せる和臣に、私は唇を重ねた。