パンを食べ、学校へ行くための身なりを整え、軽くリビングの掃除。そうしている間に洗濯機終了の音がなる。

まだ7時。


洗濯物を干す前にスマホを見ると、夜遊びして帰ってきていないお兄ちゃんから1分ほど前に連絡が来ていた。




『昼飯よろしく』


またか·····。
もうちょっと早く連絡欲しかった·····。


はあ·····と、ため息を出し、急いで洗濯物をベランダに干し、また台所へ行き冷蔵庫をあける。


冷凍庫に入っていたお手軽で作れる冷凍食品の焼き飯をフライパンで軽く炒め、皿に入れラップで蓋をし冷蔵庫に入れた。



ああ、もう7時20分·····。


急いで鞄を手に取り、学校へ行くため玄関の扉をあけた。


生ぬるい風が、体を包む。

季節は6月後半。
半袖だと少しだけ寒いけど、長袖だと暑いと思う中途半端な時期。
帰りが遅い私の鞄の中には、カーディガンが入っていたりする。



天気予報では明日から梅雨入りって言ってたけど、今日は降らないかな·····と、少しだけ不安になりながらも学校へと向かう。



「密葉(みつば)、おはよう」


今日も可愛い私の友達は、私の名前を呼んで朝の挨拶をしてくれる。小学校からの付き合いの桃(もも)は、「なんか雨ふりそうじゃない?」と、私の不安をグサリとついてきた。


やっぱり洗濯物、部屋干しした方がよかったかな?と。

普通に授業を受けて、普通に休み時間は桃と過し。
っていうか周りの生徒も同じように過ごしている。

たまに、どうすればお兄ちゃんみたいに不良になるんだろうと、思う時がある。


特に代わり映えのない学校生活は、私を安心させる。





「じゃあね、密葉。また明日ね」

「うん、ばいばい桃」


部活に行く桃を見送り、私も学校を出た。



部活もバイトもしていない私は、暇な時間がある·····という訳では無い。



私には、この時間になれば行かなきゃ行けない所があるから。


「山崎さん、ちょっといいかな」


え?

あたし?



「ごめん、急いでる?」


学校を出てすぐの所で、見覚えのある男子生徒に呼び止められた。確かクラスが一緒だったはず·····、でもまだ名前は覚えていない·····。それぐらい関わりのない男子生徒が話しかけてくるのに驚いて。


「え·····?」

「五分ぐらいでいいんだけど·····」



5分?
何が?

なにかあるの?


「山本が呼んでて·····、今大丈夫?」


山本?



知らない名前を出され、やっぱり困惑する。


「·····少しなら」


恐る恐る口にすれば、男子生徒は笑った。こんがり焼けている男子生徒は、何かのスポーツをしているような雰囲気だった。





男子生徒に連れられ、着いた場所は部室の裏側に位置するところ。また学校へ戻ってきた私は、よく分からないことに戸惑っていて。



その場所には、見たことも無い男子生徒が1人。


「じゃ、俺はこれで。山本頑張れよ!!」


私をここまで連れてきた同じクラスの男子生徒は、すごく笑顔で、この場を走って去った。


え?
どこに行ったの?

え?
頑張れよ?
なに?


「あ、ご、ごめんな?急に呼び出して」


そう言ったのは、エナメルの鞄を持ち、なんだかサッカーをしてそうな背の高い男子生徒。
多分、‘山本’·····。


まだよく分かっていない私は、首を傾げるだけで。



「俺の事分かる?」

分かる·····。どちらかと言うと分からない·····。
知ってるのは山本っていう苗字だけで。



「2組の山本っていうんだけど」


2組?
2組は1組である私の隣のクラスで。



「よく1組の宮崎んとこ遊びに行くんだけど」


宮崎?
もしかして、さっきまでいた男子生徒のこと?
確かに宮崎っていう名前の生徒はいたような気がする。でも顔と名前が一致していない私にとっては、まだ宮崎が誰だか分からない。



「ごめんなさい·····男の子とはあまり関わってなくて·····」


正直、女の子の友達も、数人しかいなく。



「いやいや、山崎さんが謝ることじゃないからっ。」


山本君は両手を左右に振り、慌てて私に謝ってきた。

焦った顔の山本君は、落ち着かせるように息をゆっくり吐いた。


サッカーをしているような山本君は、どちらかというと爽やかでかっこよく、太陽がよく似合いそうな人で。




「いきなりで驚くかもしれないけど、俺、山崎さんのことすごく気になってて」



気になってて?



「よかったら友達からでも·····」


友達からでも··········。


ようやく、今の状況が分かった。

私に告白するために、宮崎君に私を呼び出してもらった。



今、初めて告白されているというのに、私は意外にも冷静だった。異性に好かれる·····というものはイヤではなく、嬉しいことだと思った。


昔の私なら、こんなにもかっこいい彼に告白してくれたら、すぐにOKしただろうと、心の中で思った。




「山崎さん?」



でも、今の私にはそれが出来ない。
もし両思いでも、私は決して付き合わない。

私の中ではそう決まっているから。




「ごめんなさい·····」


視線を下に向けた。告白してくれた山本君に本当に申し訳なくて、顔を見れなかった。



「や·····、やっぱ急に告ったから?」


そうじゃなくて。


「それとも彼氏とか·····、好きな人いるとか?」


いない·····。


「ごめんなさい、今は彼氏とか·····考えてなくて。本当にごめんなさい·····」


「·····うん、分かった。ごめんな。急にこんな事·····」


きっとショックなはずなのに、山本君は笑っていた。
私だったら笑えない。
振られたらきっと、笑って相手の顔を見れない。

いい人なんだろうなって思う。



「挨拶とかするのはいい?「おはよう」とか·····。普通の友達·····」


だから、せめてもの償いで、私もできるだけ笑顔を作った。





「うん、もちろんだよ」