「お姉ちゃん見てー!すごい!金だよ!!」

侑李の黒髪の中に、金色のエクステがつけられた。美容室の鏡をみて喜んでいる侑李は、本当に嬉しそうで。

私は「かっこいい!」と何枚も写真を撮った。



「そんなに騒いだらダメだよ」

「うんっ」



エクステもつけたうえ、髪を切ったため、スッキリした侑李。こうやって見ると普通の男の子なのに。
いつ爆発するか分からない爆弾を抱えている。



侑李を歩かせるワケにはいかず、タクシーへ家へと帰る。


家にはお兄ちゃんがいて、侑李の髪を見て「おおおお!!」と、「すげぇ似合ってんじゃん!!」と侑李をべた褒めしていた。


その光景を見ながら私はクスクスと笑い、ずっとこのまま·····、こうやって暮らせればいいのにと何度も思った。




そろそろ外出許可も終わりの時間が近づき、しょんぼりしている侑李を見て、お兄ちゃんは「俺も一緒に行ってやる」と侑李の頭を撫でていた。



病院までタクシーで行き、侑李と私は手を繋いでタクシーをおりた。



その時、「あ··········」と、先にタクシーから出たお兄ちゃんは口を開いた。



「ちょっと待っててくれ」


お兄ちゃんはそう言うと、病院の方へと走っていく。なんだろうと思いながら、侑李と一緒にタクシーを見送った。

財布をカバンの中へ入れてっと·····。




「お兄ちゃんの友達かな?」

「え?」

「お兄ちゃん、誰かと喋ってるよ」



侑李にそう言われて見てみると、入口付近でお兄ちゃんは誰かと喋ってる様子だった。


お兄ちゃんは金髪。
その喋ってる人も、負けないぐらい金髪で輝いていて·····。


どうやら本当に友達と会ったらしい。



時間も限られているから喋っているお兄ちゃんを待っているワケにはいかず、侑李と病院に入るため足を進めた。



「よぉフジ、お前もいたのかよ」

近くにいけば、お兄ちゃんの声も聞こえて·····。






病院の中から出てくる人に、喋りかけたお兄ちゃんは、「フジ」と呼ばれた人とも知り合いみたいで·····。


その光景を見て、私はどうして·····と、目を見開いていた。


「フジ」と呼ばれた人と、目が合う。

その人も私を見て、驚いた顔をした。





「辰巳(たつみ)と今会ったんだよ、すげぇ久しぶりじゃん」


ずっといた金髪の人は辰巳というらしいが·····。


いや、それよりも·····。


どうしてお兄ちゃんが、和臣と知り合いなの?


藤原和臣·····。
ふじわら·····。
フジ·····。



もう、会うつもりは無かったのに。




「お兄ちゃん、お友達?」

侑李が佇んでいる私の手をひき、お兄ちゃんのそばに近寄っていく。
動揺している私は、和臣の方を見れず、顔を下に向けるしか出来なくて。



「そうだよ。あ、妹と弟。会うの初めだよな」


初めてじゃない·····。
私はその人と、毎日電話してる·····。


お兄ちゃんの友達だったんだ·····。



「確か妹はフジんとこと同い年」


なんで。
会えて嬉しいはずなのに、
動揺が止まらない。

「はじめまして!」

笑顔でいう侑李の顔を見て、少しだけ動揺が落ち着いた。



「初めまして。かわいいな。挨拶出来んの偉いじゃん」

和臣は侑李を見て笑いかけると、侑李の背丈に合わすように少しだけしゃがみ、私を抱きしめたことのある手のひらで侑李の頭をゆっくりと撫でた。


ニヒヒと笑う侑李。



「で?お前ら2人何してんの?」

「フジの病院付き合ってたんだよ」

「フジの?お前どっか悪いの?」

「いや、前骨折って、辰巳が暇そうだから送り迎え頼んだんだよ」

「マジ?災難だな辰巳」

「ある意味こいつのせいだからな」



辰巳って人と、お兄ちゃんと会話をする和臣は、何だか別人のような感じた。



「お兄ちゃん、時間過ぎちゃうから先に行くね」

「ああ、俺も行くわ。じゃあな、また走りに行こうぜ」

「おー」


走りに行く?
どこへ?


まだ動揺している私は、和臣の横を通りすぎる時、何も出来なかった。


和臣も何も私に言わず、ドキドキとうるさい鼓動を抑え、病棟へと向かう。



「お兄ちゃん、学校のお友達?」

私の知りたいことを、侑李が兄に聞く。



「いや、紹介っつーか、たまたま仲良くなったんだよ。家遠いけどな。マジ久々にあったわ」

「そうなんだ」

「あの2人すげえんだぞ?」

「すげぇ?」

「時期総長と特攻って言われてる」

「そーちょ?とっこーってなに?」

「暴走族のな、1番偉い人って意味だよ」



お兄ちゃんの言ってることが、いまいちよく分からなかった。


暴走族?

和臣が?


動揺がおさまらない。




必死に自分を保った。

そうでもしないと、病院の中を走って、和臣を追いかけそうだったから。



和臣は私だと気づいているはずなのに、話しかけてこなかった。もしかすると和臣も、私がお兄ちゃんの妹だと知って動揺していたのかもしれない·····。





『·····俺だけど』

昼間聞いた声よりも、やっぱり電話越しだと、穏やかなで落ち着いた声に感じる。



「うん·····」

『マジでびびった·····、大和の妹だったんだな』

「私もびっくりしたよ」

『だな』


電話越しで、和臣の笑った声が聞こえた。


『でも、あのタイミングで大和の妹って分かって良かったかも』

「どうして?」

『ずっと密葉に会いたかったから。マジで追いかけそうになった。マジでびっくりしたから』

私も追いかけそうになったよ?
その言葉を、喉の奥にしまい込んだ。



「お兄ちゃんに、内緒にしておいた方がいい?」

『どっちでもいい、俺が密葉を好きなのは変わんねぇし』

「そっか·····」

『でも、反対されるかもな』


反対?
兄に?

なぜ?


侑李のことを疎かにしてしまうから?

お兄ちゃんの友達だから?
気を使うようになるから?


それとも·····。



「暴走族だから?」

『そう、大和に聞いた?』

「うん。お兄ちゃんが凄い2人って言ってたよ。時期総長とか·····」

『凄くねぇよ·····、密葉、怖くねぇの?』



兄に反対される理由。
それは和臣が暴走族だから。
私も、暴走族っていうのは悪いことしかしてないイメージがあるし。

兄にはそういうのにはあんまり関わんなよ〜って、自分は不良のくせに言われたことがあって。



でも、兄や和臣から話を聞いて、それほど怖いと思わなくて。他の人はしらない。
でも·····もう和臣という人物を知ってるから。


「暴走族って何するの?」

『何って言われたら分かんね』

「大きい?」

『さあ?少なくはないと思うけど、大きいかって言われたらわかんね。今で大きいっていったら、これで終わるだろ?』




「え?」

『まだ、未来のことは分かんねぇからな。倍の人数になるかもしんねぇし。そうすれば今の人数は少ないってことになるだろ』


確かにそうだと思った。




『密葉?』

「どうしたの?」

『密葉だけは、俺が総長になっても変わらないでいてほしい』

「どういう意味?」

『そのまんま。俺が好きな密葉でいてほしい』


どういう意味か分からない。

和臣の好きな私·····?




『悪い·····1分すぎてんな』

「ううん·····」

『髪、似合ってた』

侑李の髪·····。



『好きだ、マジで·····。好きすぎておかしくなりそう·····』

「和臣·····」

『すげぇ会いてぇ·····』


私も会いたいよ。

ほんとに、本当に会いたいって·····。


侑李の頭を撫でる和臣の手を思い出した。本当はその手に触れたくて仕方無かった。


「私は変わらないよ·····。和臣がどんな人でも·····」

『うん』


強引で、ストーカーなのが、私の知っている和臣なんだから。暴走族とか、そんなの知らないわけで。



「また明日ね」

『今度さ』

「うん?」

『また、偶然会ったら、抱きしめてもいいか?つーか絶対我慢できねぇ·····』




もう、1分は過ぎてしまってる。



「お兄ちゃんがいても?」

『ああ、関係ねぇしな』

「うん」

『いいのかよ?』

「ダメって言っても、和臣はするでしょ?」



私が笑うと、和臣も笑った。


よく分かってんなって。