数日後、男が魔女を訪ねてきた。私と黒い蝶々だけの部屋を気味悪がったけれど、不在の魔女の帰還を待つつもりらしい。

 魔女はもういない。私の言葉に耳を傾けない男に珈琲をもてなすと、不味いと顔をしかめられる。


 やがて、待てども帰ってこない魔女に痺れを切らした男は、何時間か経ったあと、ようやく帰るようだった。


 外に通じる扉を開けてやる。私にひとこと嫌味を放って帰る男のギターに蝶々がとまり、そこから一切動かなくなったそれはまるで、初めからあった模様のようだった。


 男はきっと、何ひとつ気づかない。

 何ひとつ、知らない。


「……」


 最期のほうは、男のくだらない願望へのおまじないしか受けていなかったことを。

くだらなかった。成功だとか金や女なんて、なんて愚かなことだろうか。頼るな。


 もてなされていた珈琲。訪れた人全てにブランデーが足されていたというとでも?


「……」


 今、ここに居てくれたら……きっとまた、勝手な妄想だと笑われるだろうけど。


 誰にも、教えてやるもんか。


 私の指先に蝶々がとまる。少しばかりの休憩を見守りながら、ある日爪の形が似ていると言われたことを思い出す。

 微笑んでくれた。それだけを大切とする。


 誰にも何も、教えない。思い出に鍵をかけ、私の中でだけ自由にさせる。


 私だけ。私だけのものだ。




――END――