黒く染まっているのではなく、これは蝶々たちなのだよと、いつか魔女が言っていた。おまじないを、ひとつかけると、蝶々がひとつ、魔女の身体に棲み着くのだと。


「心臓まで染まっているんだよ」


 魔女はそうも言っていた。


 翌日、私の目の前で蝶々そのものになってしまった魔女。最期はどこか、安堵の表情だったようにも思う。たったひとつの肉体が、たくさんの蝶々になってしまった。けれども苦しいものではなかったのだと、それだけが救いだった。

 最初は輪郭がぼやけ黒い塊に変化し、弾けるようにそれぞれが羽を広げ飛んだ。それらを掻き分けてみても、そこにもう魔女の姿はなくなっていて。


 魔女は、よく効くおまじないの代償として、その身を差し出していた。