「まあ、そうだったの?父上。」

萌黄はその話を聞くのは初めてらしく、酷く驚いていた。

「こより殿は、歌が上手く、器量がいいと専らの噂だった。だが、こより殿は高政殿が恋をしていた。私の出る幕ではなかったよ。」

萌黄は笑っているけれど、母の口からそんな思い出話が出たと言うことは、本人にも良い思い出なのだろう。

「こうして、子供同士が結婚することになるとはな。久世家には良い話を頂いた。」

実重は、この結婚がとても嬉しかったのか、酔っても広間から去ろうとしない。

「実は私は、若手の中では、直元殿が一番の出世頭と見込んでいたな。しかし、今出川家は今や落ちぶれて、こちらからは、婿殿にしたいとは、言えなかった。」

直元も萌黄も、父である実重の話を、うんうんとうなずいて聞いていた。