この世は空蝉だと言ったのは、誰だったか。


「直元。」

「はい、父上。」

春の匂いがする庭を眺めていた時、直元は父の高政に呼び止められた。

父・高政が直元の隣に座ると、一つ咳ばらいをした。

「直元、そなたも内裏に出仕するようになった。ついては、妻を迎えようと思っている。」

「妻ですか?」

まだ15歳になったばかりの直元には、他人事みたいな話だ。

「なに、今直ぐ結婚しろとは言わない。何度か会ってみてはどうだ?」

「はい。」

内裏の仕事も始めたばかり。

女の事は、とんと知らぬ直元に、降って湧いたような話だった。