「ちいちゃんいらっしゃい」
リビングに入ると、キッチンから声をかけてきたのは、なおくんのお母さん。
なおくんに雰囲気がよく似ていて、大好きだった。
その隣に立つのは、初めて見る女の人。
アイラインが切れ長の目を強調させていて、目鼻立ちのはっきりした綺麗な人だ。
「はじめまして、美羽と申します」
「……はじめまして、千穂です」
「千穂ちゃんのことは那生からよく聞いてるから、会えて嬉しいな」
鈴が鳴るような声で、サラサラの髪の毛を揺らして、美羽さんが近づいてくる。
震える声でなんとか自分の名前は言えたけれど、その後に「那生」と呼んだ衝撃は大きくて、ぎこちない笑顔を向けることしかできなかった。
「驚かしてごめんね、ちいちゃんに彼女を紹介したくて」
「……うん」
「来年、美羽と結婚するんだ」
開いた口からは声さえ漏れず、絶望の空気が溢れた。
誰でもいいから、この場からわたしを消してほしい。
美羽さんと並ぶと自分が酷く不格好で惨めに思えて、高校に入って頑張って研究しているメイクも落としてしまいたいほど、なおくんの目の前から自分という存在を消してしまいたかった。