わたしが中学三年生になった頃、なおくんは社会人五年目に入っていた。
夢だと言っていた小学校の先生になったなおくんは、最近いつも忙しそう。
たまにの電話もすぐに切れてしまう。
「(中学か高校の先生だったらなあ)」
そしたら、なおくんの学校に通えたのに。
なおくんの授業を受けて、休憩時間や放課後に会いに行けたのに。
そんなことを何度考えたことだろう。
だけど、明日の土曜日は久しぶりになおくんが帰ってくるらしい。
何から話せばいいかな、と今からそわそわと落ち着かない。
終礼が終わると同時に教室を飛び出して、一生懸命自転車のペダルを漕いだ。
家までの最高速度を更新してしまうほどだった。
「ただいま〜」
「あらおかえり、なおくん帰ってるわよ」
「行ってくる!」
玄関からお母さんに呼びかけると、嬉しい情報が手に入った。
学校指定の通学カバンを玄関に置いて、ドアの前で崩れてしまった前髪を整えたら、準備はバッチリ。
入ってきたドアをまたすぐに開けて、隣の家に向かった。
お母さんがぼそりと零した「ショック受けなきゃいいんだけど」なんていう言葉は、浮かれたわたしの耳には届かなかった。