「ちいちゃん……」

困ったような声色のなおくんが、頬を濡らす涙を拭ってくれるけれど、とめどなく流れるそれはなおくんの手を濡らし続けた。

ごめんね、も。
泣かないで、も。
幼いわたしには受け止められなかった。

「わたしが、いい子じゃなかったから?」
「違うよ」
「なおくんに、いつもわがままばっか、言ってたから?」
「ううん、違う」
「なおくん、わたしのこときらいになったの?」
「絶対に違う。聞いてちいちゃん」

わたしが泣きじゃくりながら尋ねるのを、なおくんは終始穏やかな声で、けれど最後の質問には珍しく語気を強めて否定した。

それからなおくんは、落ち込むわたしに家を出る理由を話してくれた。

大学を卒業したから就職すること。
夢だった先生になれたこと。
赴任先が少し遠い小学校で、ここから通うのは大変だからその近くに住むこと。