隣の家のなおくんは、わたしより十二個も年上の優しいお兄ちゃん。
高校に入学して、やっと十六歳になったばかりのわたしとは、ひと回りも違う。
「ちいちゃん」
わたしの名前を呼んでくれる柔らかいその声が昔から大好きで、小さい頃は中学校や高校から帰ってくるなおくんを見つける度に駆け寄っては抱きついていたっけ。
そうすると、なおくんは眉を下げて笑って、腰にしがみついたわたしをなんてことないように軽々と抱き上げてくれた。
「ただいま、ちいちゃん」
「おかえり、なおくん」
「いい子にしてた?」
「うん! いい子にしないとなおくんがおよめさんにしてくれないもん」
そう言うとなおくんは目尻を下げて、ぽんぽんと優しく頭を叩いた。
毎日の決まったやり取り。
わたしはその時間がたまらなく好きだった。
なおくんのおよめさんにしてね。
そう言うとなおくんはいつも笑ってた。
時々、学校が早く終わったなおくんがお母さんの代わりに幼稚園に迎えに来てくれたこともあった。
「なおくんだ!」
「今日は僕がお迎えに来ちゃった。ちいちゃんおかえり」
「ただいま!」
そんな時はいつものやり取りが逆になる。
わたしは急いで荷物をまとめて、大好きな先生にさようならをして、あたたかいなおくんの手をぎゅっと掴んだ。
そして、わたしの小さな手を握り返したなおくんが「帰ろっか」と言うのを合図に、時々公園や駄菓子屋さんに寄り道をしながら家に帰った。