席につくと、グラスに炭酸水が注がれる。
白い泡がすぐに消えていく。
ぱちぱちと弾ける音を合図に、わたしの恋が終わりを告げた。
震える手でグラスを持ち、ゆっくりと口付ける。
恋心を溶かした甘くないそれを飲み込めば、もうなおくんを好きではいられない。
「(どうか幸せになってね)」
そんな願いを込めて。
涙を流さないように瞳は閉じて。
苦味さえ感じるそれを、わたしはぐっと喉奥に流し込んだ。
ああ、きっと人魚姫もそうだった。
音も立てずに人知れず、そっと水の泡に帰っちゃったんだね。
グラスに残った炭酸水に、もう泡は残っていなかった。
ーー水泡にキス【完】