「結婚、するんだね」
「ちいちゃんにはなかなか報告できなくてごめんね」
「ううん、あの、お母さんにお手伝い頼まれてるからもう帰るね」
「えっ、でも話したいことがあるって」
「那生、ちいちゃんも受験生だから大変なのわかるでしょう」

きっとわたしの恋心に気づいてたおばさんが、悲しい顔をして見送ってくれる。

玄関でぽつりと落とされた「ごめんね、ちいちゃん」という言葉が胸をぎゅっと締め付ける。

震える口元を無理に上げて「大丈夫だよ」と笑ってみせると、おばさんはわたしを優しく抱きしめてくれた。

そのぬくもりがあまりにも暖かいから、目から滴が落ちそうになる。
慌てておばさんを引き離したわたしは「じゃあね」と告げて、唇を噛み締めて外に出た。

とぼとぼと無心で歩く。
何度も通い慣れた道が、果てしなく続くものに思えた。

今すぐに死んじゃうのかなってぐらい、呼吸をするのもままならない。
目の奥は熱いし、鼻先もツンと痛む。

「ばかだなあ、わたし」

およめさんにしてね、って。
あの頃話したこと、なおくんはもう忘れちゃったんだね。