ようやく文化祭が終わった今日、実行委員の仕事で学校に残っている陽ちゃんが帰ってくるのを待っていた。先週からはずっと一緒に帰れなかったから、話したいことがたくさんある。

なにから話そうかと考えては笑みが零れ、時計を何度も見てはソワソワしていたけれど──。

「陽ちゃん、遅かったね……」

彼が帰宅したのは十九時を回っていて、ベランダに姿を現したのもいつもよりも随分と遅かった。


「あー、悪い」

「そんなに遅くまで残らなきゃいけなかったの?」

「まぁ……それもあるけど」


身を乗り出すようにしてみても、どこか歯切れの悪い言い方をする陽ちゃんの顔がよく見えない。いつもはすぐ近くに感じられるのに、今日はどこか彼が遠い。


「陽ちゃん?」


静かなベランダに私の声が落ちると、壁越しに小さな深呼吸が聞こえてきた。


「菜々」

「……なに?」

「話がある」


真剣な声音に思わず返事が遅れたけれど、陽ちゃんは間髪を入れずにそう言った。程なくして目が合った彼は、いつになく戸惑いを孕んだような複雑な表情をしていて、一瞬にして全身が緊張感に包まれた。