陽ちゃんのファーストキスを奪ったのは、私。


まだ恋という字も書けなかった頃から恋心を自覚していた私は、あろうことか自分から彼にキスをしたんだ。今の私からは考えられないけれど、まだ四歳の女の子は怖いもの知らずだった。

しかも、そのシーンをお互いの両親がばっちり目撃していて、照れる陽ちゃんをからかうように大人たちは大盛り上がりだったことを鮮明に覚えている。おかげで、その時はなぜか誇らしいような気持ちになった。


「えー、あれも立派なキスでしょ」

「まだオムツしてたガキの口がくっついただけだろ」

「それをキスって言うの! てか、オムツなんてもうしてなかったよ!」


「はいはい」と笑う陽ちゃんは、隣のベランダから手を伸ばして私の頭をクシャッと撫でた。同時に、彼の体温が伝わってきて、胸の奥がキュンと震える。


どんなに呆れたような顔をしていても、陽ちゃんは本気で拒絶したりはしない。口では意地悪や冷たいことを言っていても、彼が私を邪険にしたことは一度もない。


ちょっとぶっきらぼうだけれど、面倒見がよくて優しい。そういうところも、陽ちゃんのことを好きな理由のひとつだ──。