時は金なり
「私、色々考えたんだ。時羽君は寿命を取引する仕事をしているけれど、それは自分自身の命を削るわけではない。あくまで傍観者でしょ。だから、客の気持ちなんてわからないだろうし、心の傷なんてないんだと思ったの。岸君だって、寿命を取引する仕事だけれど、自分の命は削らないでしょ。だから、やっぱり普通の人の痛みとか弱さには鈍感なんじゃないかなって思ったんだ。私、ひどいよね。色々心配してくれた二人に向かって」
「雪月の言う通りだよ。俺は、人から寿命を取り上げることはビジネスだと思ってやってきた。だから、そこに基本的に私情を挟んだことはない。だからこんな表情のない性格になってしまったのかもしれないな。あくまで第三者であって当事者じゃないから、自分はどこか無関係者だと思っている節はあったと思う。だから君の考えは間違っていない」
時羽は冷静に言った。
「でも、初めて時羽君が声を荒げた時、私ドキッとしたんだ。時羽君に新たな感情が芽生えたのかなって。友達を擁護する気持ちとか間違ったことを見て見ぬふりをしない心とか」
「たしかに、僕たちは特別なことをやっているけれど、自分たちは損をしないから、余裕でいられるのかもしれないね。関係のないこと、他人事だから。でも、風花ちゃんのことは僕も時羽も他人事だと思っていなかったからね」
岸も同意する。
「……ありがとう」
「時は金なりだと思わない?」
岸が言う。
「時羽金成?」
「そうじゃなくって、時間は貴重なものだから大切にしろっていうことわざがあるでしょ。風花ちゃんにとっての時間は貴重なものだと思うんだ。だから、早くその時が来てほしいとか思ってほしくない。できれば一日でも長生きしてほしいと僕たちは切実に思っている」
「今こそ起死回生だよ」
時羽が言う。
「岸海星?」
「四字熟語のほうの起死回生。つまり、雪月さんには長生きしてもらうために何とかしたいって思っている。そして、自分なんていなくてもいいとかそういった後ろ向きな考えはやめてほしい。はじめてできた友達だから」
「私、ダメな人間だよね」
「完璧な人間なんていないだろ」
時羽は言う。
「岸は知識豊富で動画編集もうまいけれど、テスト勉強は好きじゃないし。俺は人づきあいが苦手だ。完璧な人間を誰も求めちゃいないよ」
「雪月さんは今の自分のままでいいだろ」
「風花ちゃん最高だから、そのままでいいって」
「岸君は桔梗ちゃんのことどう思ってるの?」
「どうって? 別に」
「桔梗ちゃんは岸君に頼っている部分があるし、社会との接点が岸君でしょ。だから、私のことを好きだとか桔梗ちゃんの前で安易に言わないでほしいの」
「桔梗のような変な奴より女性としては風花ちゃんが好きだ。そして、桔梗はそれに対して雪月や僕に何か感じることはない」
断言する岸。
「でも、ペットならば飼い主が他の人と仲良くしていたらやきもち妬いちゃうかもよ」
「そういう理屈か。まぁ、妬くことは、絶対にないけどな」
「私は、岸君も時羽君も好きだよ。恋愛としては時羽君が好きだと思っているけどね」
二人を目の前にしての大胆な告白だ。時羽はそのまま固まってしまう。岸は、何も言わずに帰り支度をはじめる。それを阻止して、時羽が帰る。
「岸がいなかったら俺はここに来ていない。どっちかというと俺がいても役に立たない。だから、恋愛するなら岸としてほしい。彼を好きになってほしい」
時羽はそのまま帰宅した。
「ふられちゃった」
雪月が言うと、岸も負けずに
「ふられちゃった」と言う。
お互いに顔を見合わせて、くすっと笑う。
「風花ちゃんは時羽のどこが好きなの?」
岸は開き直って雪月に質問を投げかけた。何が時羽に在って自分にないのかを聞きたいというのが本音だろう。
「クールに見えているのに、中身がネガティブギャップと、切れ長の涼しい目元」
「僕にはない魅力ばっかりじゃないか」
「岸君は気が利いて、優しくて、頭の回転が速くて、とってもかっこいいよ。時羽君は危なっかしくてほっておけないっていうところが魅力なのかもね」
「母性本能をくすぐるタイプかぁ」
「岸君には桔梗ちゃんがいると思っていたしね」
「それは、ちがうけどな。実は、風花ちゃんのお母さん関連の話がなかったか調べたんだけどね。どうやらお母さんを怨んでいる女性が不幸にしたいと願ったという記述がでてきたんだ。雪月まゆきから幸福を奪い、仕事の成功を手にしたいというような記述だった」
「なんで、お母さんのことを怨んでいるの? だって……お母さんは誰にでも平等で優しくて好かれていた。仕事もできるし迷惑をかけたり意地悪をする人じゃない」
「だからこそ怨まれたのかもね。誰にでも好かれない仕事ができない人がいて、その人さえいなければ、自分が出世したと思う人間もいる」
「その相手は誰なの?」
「相手のことは企業秘密だから言えないんだけどさ。ねぇ、風花ちゃん。僕のことを好きじゃないのはわかっているけれど、少しは意識してよ。ちょっとしたきっかけで、好きになるかもしれないでしょ?」
フラれた直後に改めて真剣な顔で告白をしてくる相手を無下にはできない。雪月は、ちゃんと岸に向き合ってみることにしようと思った。岸は気が利くし優しい。失恋した雪月は、よりどころが欲しかったのかもしれない。岸海星という不思議な力を持つもう一人の男子に頼ってみたいと思ったのかもしれない。
「私、色々考えたんだ。時羽君は寿命を取引する仕事をしているけれど、それは自分自身の命を削るわけではない。あくまで傍観者でしょ。だから、客の気持ちなんてわからないだろうし、心の傷なんてないんだと思ったの。岸君だって、寿命を取引する仕事だけれど、自分の命は削らないでしょ。だから、やっぱり普通の人の痛みとか弱さには鈍感なんじゃないかなって思ったんだ。私、ひどいよね。色々心配してくれた二人に向かって」
「雪月の言う通りだよ。俺は、人から寿命を取り上げることはビジネスだと思ってやってきた。だから、そこに基本的に私情を挟んだことはない。だからこんな表情のない性格になってしまったのかもしれないな。あくまで第三者であって当事者じゃないから、自分はどこか無関係者だと思っている節はあったと思う。だから君の考えは間違っていない」
時羽は冷静に言った。
「でも、初めて時羽君が声を荒げた時、私ドキッとしたんだ。時羽君に新たな感情が芽生えたのかなって。友達を擁護する気持ちとか間違ったことを見て見ぬふりをしない心とか」
「たしかに、僕たちは特別なことをやっているけれど、自分たちは損をしないから、余裕でいられるのかもしれないね。関係のないこと、他人事だから。でも、風花ちゃんのことは僕も時羽も他人事だと思っていなかったからね」
岸も同意する。
「……ありがとう」
「時は金なりだと思わない?」
岸が言う。
「時羽金成?」
「そうじゃなくって、時間は貴重なものだから大切にしろっていうことわざがあるでしょ。風花ちゃんにとっての時間は貴重なものだと思うんだ。だから、早くその時が来てほしいとか思ってほしくない。できれば一日でも長生きしてほしいと僕たちは切実に思っている」
「今こそ起死回生だよ」
時羽が言う。
「岸海星?」
「四字熟語のほうの起死回生。つまり、雪月さんには長生きしてもらうために何とかしたいって思っている。そして、自分なんていなくてもいいとかそういった後ろ向きな考えはやめてほしい。はじめてできた友達だから」
「私、ダメな人間だよね」
「完璧な人間なんていないだろ」
時羽は言う。
「岸は知識豊富で動画編集もうまいけれど、テスト勉強は好きじゃないし。俺は人づきあいが苦手だ。完璧な人間を誰も求めちゃいないよ」
「雪月さんは今の自分のままでいいだろ」
「風花ちゃん最高だから、そのままでいいって」
「岸君は桔梗ちゃんのことどう思ってるの?」
「どうって? 別に」
「桔梗ちゃんは岸君に頼っている部分があるし、社会との接点が岸君でしょ。だから、私のことを好きだとか桔梗ちゃんの前で安易に言わないでほしいの」
「桔梗のような変な奴より女性としては風花ちゃんが好きだ。そして、桔梗はそれに対して雪月や僕に何か感じることはない」
断言する岸。
「でも、ペットならば飼い主が他の人と仲良くしていたらやきもち妬いちゃうかもよ」
「そういう理屈か。まぁ、妬くことは、絶対にないけどな」
「私は、岸君も時羽君も好きだよ。恋愛としては時羽君が好きだと思っているけどね」
二人を目の前にしての大胆な告白だ。時羽はそのまま固まってしまう。岸は、何も言わずに帰り支度をはじめる。それを阻止して、時羽が帰る。
「岸がいなかったら俺はここに来ていない。どっちかというと俺がいても役に立たない。だから、恋愛するなら岸としてほしい。彼を好きになってほしい」
時羽はそのまま帰宅した。
「ふられちゃった」
雪月が言うと、岸も負けずに
「ふられちゃった」と言う。
お互いに顔を見合わせて、くすっと笑う。
「風花ちゃんは時羽のどこが好きなの?」
岸は開き直って雪月に質問を投げかけた。何が時羽に在って自分にないのかを聞きたいというのが本音だろう。
「クールに見えているのに、中身がネガティブギャップと、切れ長の涼しい目元」
「僕にはない魅力ばっかりじゃないか」
「岸君は気が利いて、優しくて、頭の回転が速くて、とってもかっこいいよ。時羽君は危なっかしくてほっておけないっていうところが魅力なのかもね」
「母性本能をくすぐるタイプかぁ」
「岸君には桔梗ちゃんがいると思っていたしね」
「それは、ちがうけどな。実は、風花ちゃんのお母さん関連の話がなかったか調べたんだけどね。どうやらお母さんを怨んでいる女性が不幸にしたいと願ったという記述がでてきたんだ。雪月まゆきから幸福を奪い、仕事の成功を手にしたいというような記述だった」
「なんで、お母さんのことを怨んでいるの? だって……お母さんは誰にでも平等で優しくて好かれていた。仕事もできるし迷惑をかけたり意地悪をする人じゃない」
「だからこそ怨まれたのかもね。誰にでも好かれない仕事ができない人がいて、その人さえいなければ、自分が出世したと思う人間もいる」
「その相手は誰なの?」
「相手のことは企業秘密だから言えないんだけどさ。ねぇ、風花ちゃん。僕のことを好きじゃないのはわかっているけれど、少しは意識してよ。ちょっとしたきっかけで、好きになるかもしれないでしょ?」
フラれた直後に改めて真剣な顔で告白をしてくる相手を無下にはできない。雪月は、ちゃんと岸に向き合ってみることにしようと思った。岸は気が利くし優しい。失恋した雪月は、よりどころが欲しかったのかもしれない。岸海星という不思議な力を持つもう一人の男子に頼ってみたいと思ったのかもしれない。