生き延びた次の日、清音が未来を透視すると、自分のひ孫に読心能力が遺伝する未来が見えた。
 私たちの身勝手な行動で、君に、辛いものを背負わせてしまい、申し訳ない。
 せめて何か財産を残せやしないかと、私は絵を描き続けたが、そんなことには意味がなかったかもしれない。
 息子はその資金で立派な会社を設立したが、未来の君はそんなことで幸せにはなっていないと、妻は予知した。小学生の君の未来が、彼女が予知できる限界の範囲だった。
 罪悪感を抱いた妻の感情も段々と不安定になり、私にその感情を読まれることを恐れていた。私は自ら籠城生活を望み、部屋にこもりきりになった。
 それでも、妻は死ぬまで私のそばを離れなかった。何度も部屋にやってきては、ドア越しに話しかけてくれた。
 彼女がそばにいてくれる理由は、私が傷つくことを一番に恐れていたからだ。
 私はそれが、とても辛かった。同情されそばにいてもらうことほど、辛いものはなかった。
 そうこうしているうちに妻は亡くなり、この世を去る。
 私は、心が読める能力があることを知っても、生涯そばにいてくれた妻のことを思い出しながら、何枚も何枚も絵を描いた。
 同情でもなんでも、彼女は私のそばにいることを選んでくれていたのに。
 私の、世界でたったひとり、心から信じた人。
 彼女は、運命を変えてしまったことを悔やむ私に何度も、手を差し伸べ、笑いかけてくれた。そして何度も語りかけてくれたのだ。
 「自分を許せるのは自分だけ、だから乗り越えてほしい。私も、あなたを失いたくない想いで、予知したことを知らせてしまった。本当はあの時あなたの死を受け入れて見送るべきでした。罪深いのは私なのです」と。それでも、ともに乗り越えようと、犯した罪から目を背けずに、前に進もうと、彼女は何度も言ってくれた。
 私は怖くて、絵を描くことで逃げ続けた。その言葉の意味に気づけたのは、彼女を失ってからだった。心が読めるのに、俺は勝手な妄想で彼女のことを理解しようとしなかった。
 こんな私が、君に偉そうに語れることなどある訳がない。 
 だけど、一言伝えるとしたら、それは、妻と同じく、「乗り越えてほしい」という言葉だけだ。
 不甲斐ない曾祖父で申し訳ない。
 君の未来が少しでも明るくなることを、ひとりこの部屋から願っている。

 敬具 成瀬義春】