■そばにいる方法 side志倉柚葵

 『柚葵と一緒にいられる方法を、探してみる』
 そう言って、成瀬君は私の体を強く抱きしめた。
 こんなに近くにいるのに、私は成瀬君の心を読み取ることはできない。
 成瀬君はきっと、能力を消す方法を探しているのだろう。
 消さないと、私のそばにいることはできないと、そう思っているのだろう。
 彼が今まで自分の能力とどう向き合ってきたのかを知らないから、私は何も言うことができなかったけれど、私は彼にどんな力があろうとなかろうと、一緒にいたいと、思ってしまったのだ。
 いつか彼と一緒に美術館に行く。そんな未来の約束をできただけで、私は十分だった。

「柚葵! 今日は何時間描いてるの?」
「わっ、びっくりした! 桐、いつのまに」
 夜の二十時。自宅で予備校から与えられた課題にもくもくと取り組んでいると、桐がひょこっとドアから顔を出してこっちを見ていた。
 どうやら予備校帰りに歩いていたところを私の母親に見つかり、寄っていきなよと誘われたらしい。
 桐はコンビニ袋に入ったお菓子を「甘い物摂取しな」と言って差しだす。
「ありがとう。わあ、私が好きなのばっかり!」
「柚葵の好みは分かりやすいからね。ミルク系で、濃厚で、甘いやつ」
「ありがとう。私も今度何かお返しするね」
「いいって。一緒に食べよ? あんまり根詰めすぎてもよくないからさ」
 桐は床にあるクッションに座ると、ミルクチョコレートの箱をベリベリッと開けて、同じように床に座った私の口の中にチョコを放り込む。絵の具で指が汚れているから食べさせてくれたのだと思うけど、今の自分はまるでペットのようだ。
「いっぱい食べて大きくなりなー」
「はは、本当に動物扱いだね、美味しい」
「ふふ。柚葵、なんか最近幸せそう。なんかあった?」
「えっ」
 桐の大きな瞳に見つめられて、私はドキッとした。
 成瀬君とのこと、いつか桐に話そうと思っているけれど、いったいどこまで話していいのか分からない。
 それに、私たちの今の関係に、特に名前はついていない。
 私も自分の気持ちを伝えられたはずだと思っているけれど、そういえば好きとは伝えていないような気もする。
 いやでも、私の感情は読まれているわけで、成瀬君のことを好きになってしまったのは筒抜けだと思うんだけど……。