■遠い記憶 side志倉柚葵

「今度の三連休、北海道のおばあちゃん家に帰ることになったからね」
 丁度ハンバーグを口に運んだとき、母親が思い出したようにそう言い放った。
「おばあちゃんに会えるの? やったー!」
 巴はケチャップで口の周りを汚しながら、祖母と久々に会えることを喜んでいる。
 どうやらおじいちゃんがぎっくり腰をやってしまい、畑仕事が滞り困っていたのだとか。
 巴はすっかり旅行気分でいるけれど、父と母の二人は休み返上で手伝いに行くことになったため、そこまで嬉しそうではない。
「おじいちゃん大丈夫かな。心配だね」
 ぽつりとそう呟くと、お母さんは私の心配を吹き飛ばすように右手を振って、笑った。
「だーいじょうぶよ、いっつも大げさなんだから。本音はあんたたちに久々に会いたいだけでしょうよ」
「巴、虫取りしたい!」
「んー、北海道のこの時期にはもうそんなに虫はいないんじゃないかしら」
 丁度この三日間は予備校もお休みになっていたので、私的にも問題はない。
 久々の北海道かぁ……。芳賀先生の美術館に、また行きたいな。
 そう思うと、少し私もワクワクしてきた。おじいちゃんとおばあちゃんに会えるのも、もちろん嬉しい。でも、巴がはしゃぎすぎないように、しっかり見ておかなきゃ。
 なんてぐるぐる考えていると、お父さんが眼鏡の奥から心配したような視線を送ってきた。
「柚葵。大丈夫か? 最近何か思い詰めているようだったけど」
「えっ、なんで? 全然大丈夫だよ」
「そうか。受験で疲れてるだろうし、リフレッシュするつもりで行くといい」
「うん、ありがとう」
 お父さんにはすっかり見破られてしまっていたようだけれど、成瀬君とのあの一件以来、私の頭の中は成瀬君のことで常にいっぱいだった。
 どうにか違う話題で気を紛らわせようと努めてみたけれど、中々思うようにはいかない。
 衝撃的な事実を告げられたあの日から、もう一週間が過ぎたけれど、成瀬君はあれ依頼一度も私と目を合わせてはくれない。
 成瀬君が岸野君だったかもしれない、という過去よりも、避けられている現実に落ち込んでいる。そんな自分に、私自身もとても戸惑っている。
「ごちそうさま。ちょっと部屋で勉強してくるね」
「えー、柚ねぇ、一緒に動画観ようよぉ。遊んでくれなくてつまんないっ」