「――勝手なこと言わないでよ。私が好きなのは、同じ学年の人じゃないですから」


 誤魔化すために、適当なことを口走る私。


「へえ~。ほんとは誰が好きなの?」


 余裕の表情で首を傾ける智也。


「た、滝沢仁……先輩、とか」

「ああ、あの硬派なひとね。紗矢花の好みとはちょっと違うんじゃない?」


 嘘が下手だな、とでも言いたげに目を細める。


「残念だけど、俺は別れる気はないから」

「――え?」


 きっぱりそう言ったあと、私のこめかみ辺りにキスをしてベンチから立ち上がった。


「また明日な。紗矢花」

「ちょっと、待ってよっ」


 まだ話は終わってないと引き止めるのを、立ち止まらずに振り向いた智也は軽く笑った。


「焦って別れることはないだろ」

「それは……」


 確かに、そうかもしれない。

 智也と別れたからって、朝陽くんがそばにいてくれるわけじゃない。

 朝陽くんは、ずっとアリサのもの。
 アリサから離れることはない。

 でも。嫌がらせをされてまで、この関係を続ける必要はなかった。


 彼の代わりは、智也じゃなくたっていいんだから。