「このくらいでいいかな」


 屋上の一角にある花壇に水をあげ終え、ジョウロを片づける。
 本当は生徒会に入っている兄の当番なのだけれど、たまに私が水やりを任されていた。
 兄から預かっていた屋上の鍵を取り出しながら、ふと校庭へ視線を移した。

 透き通るような青空が目にしみる。
 フェンスに指をかけて、網目の隙間から下を覗き込むと。
 黒いセーラー服と詰襟の学生服姿の一組のカップルが、仲良く校門を出て行くのが見えた。


「──あ。女の子と一緒に歩いてる」


 男の方は、どう見ても私の“彼氏”。
 軽く胸が痛むけれど、いつものことだ。


「用事があるから先に帰るって、私に言ってきたのに」


 用事って、他の女の子とのデートだったんだね。


紗矢花(さやか)、まだ別れてなかったんだな」


 隣に並んだ陽介(ようすけ)は、地上に目線を落としたまま唇を歪めた。