姉ちゃんは、もう1人で外に出られへんらしい。記憶が曖昧になるから、信号が青になったら渡る、っていうのも分からんらしい。
忘れるものと、忘れへんものがあるみたいで。
〝拓海くん〟は忘れたけど〝拓海〟は覚えてるとかで。
日常生活が出来へんお姉ちゃんは、今はそういう、介護しなあかん人が暮らす施設で暮らしてる。
そんな施設を出てから車を運転して約30分。もう運転にも慣れた。18で免許取ってから約6年。
そこについた俺は、その家のインターホンを鳴らした。
そこから出てくる50歳ぐらいの女性に「今月分」とそれを渡す。
その女性は渡された封筒を受け取ると、中を確認してから家の中へ戻って行った。
はあ、と、ため息を出しながら車に戻り、スマホを開き待ち受け画面を見た。
そこに写ってるのは、〝拓海くん〟と、お姉ちゃん。
俺を忘れた、お姉ちゃんが写ってる。
お姉ちゃんの介護費用、生活費用も、全部全部俺が出してる。
お姉ちゃんのそばにおれる代わりに、お金を渡す条件を突きつけられた。
〝せびったろ〟
俺から、金を取ろうとしたお姉ちゃんは、そのせびり取ろうとした相手も、忘れてしまったらしい。