病院を後にした僕は、再び当てもなく歩き続けた。今になって僕は、自分が犯してしまった過ちに激しく後悔していた。僕がしたことは自分勝手で、愚かで、今さら後悔したところで取り返しのつかないことなのだ。今すぐ母さんに謝りたい。もちろん父さんや、弟の竜にも。それから三年前、近所の公園で捨てられていて僕が拾ってきた、ペットのコロ吉にも謝りたい。もう、この身体じゃ散歩にも行けやしない。月水金は僕の当番で、火木は竜、日曜日は父さんか母さんのどちらかが散歩に行っていた。これからは毎日竜が散歩行くのかな、などと考えながら、ゾンビのように彷徨い歩き続けた。
数時間彷徨った挙句、僕は自宅に戻ってきた。リビングに入ると、既に母さんは帰宅していたようで、家族三人揃って夕食を摂っているところだった。三人共言葉を発さず、黙々と料理を口に運んでいる。テレビも点けず、静かな食卓だ。彼らの表情を見るのが辛い。息が詰まりそうになって、僕は自室に駆け込んだ。
一日が終わってしまう。残りあと二十日しかないのかぁ、とぼんやり天井を眺めながら、僕は眠りについた。
翌朝、目を覚ましたのは午前九時を少し回った頃で、やばい! と思ったところで再びベッドにドカッと寝転ぶ。まだ少し、身体が反応してしまう。僕はもう、学校へ行かなくていいのだ。自嘲気味に笑った後、ため息をついた。
身体を起こしベッドの上で胡座をかき、これからどうするべきか、真剣に考えることにした。
一時間ほど考えた結果、答えが出た。というより、答えは最初から一つしかなかったのだ。
今さら僕がどう足掻いたところで死は免れない。僕が望んだことなのだ。これに関してはどうしようもない。問題は、やはりその後になる。僕が死んだ後の話だ。
エンドーさんが言うように、この世の未練を断ち切り、成仏することが僕に残された道なのだ。今の状態では僕は成仏できず、永遠に彷徨うことになってしまう。そうなってしまえば、きっと今のように自由に歩き回ったりできないのかもしれない。
あの学校の屋上にいた少女が思い出される。やっぱり、このままではだめだ。父さんや母さんのことを思うと、胸が痛んだ。息子が自殺した上に成仏できず彷徨っていることを、両親が知ったらどう思うだろうか。知る術はないにしても、あまりに心苦しく、文字通りこのままでは死んでも死に切れない。だから僕は、なんとしてでも残りの二十日間で未練を断ち切ることを決めた。
さらに一時間ほど考えたけれど、自分の未練について、思い当たる節がなかった。
とりあえず家を飛び出して、この日も僕は歩き続けた。
気づけば学校に来ていた。ちょうど昼休みだったらしく、僕の教室はいつも通り騒がしかった。
「神村のやつ、いつ学校来るんだ? あいつ殴らねえと調子狂うな」
肩を回しながら、遠山がそんなことを言っていた。僕は遠山を睨みつけた後、教室を見回した。
自分の席に座っていた工藤さんと数秒目が合うと、彼女は立ち上がって長い髪を揺らしながら教室を出た。僕は彼女の後を追う。
「なにしに来たの?」
教室を少し出たところで工藤さんは小声で言った。
「別に……家にいても暇だから」
「そう。それで、これからどうするの?」
「どうしたらいいのか、逆に教えてほしいくらいだよ」
僕がそう言っても工藤さんは黙ったまま歩き、今度は中庭へ出た。たくさんの花が植えられた中庭には、僕らの他に生徒は一人もいなかった。
「どうしたらいいって、未練を断ち切ればいいんじゃないの?」
工藤さんは中庭のベンチに腰掛けてそう言った。
「そんな簡単に言われても……。正直、あんまりピンとこないんだ」
「何が?」
「今の僕が、幽体だってことがだよ。なんか、感覚としては普段と何も変わらないんだ。いくら歩いても疲れないのと、お腹が空かないってことを除けば、通常通りなんだよね」
ふうん、と工藤さんは興味なさげに頷いた。
「それに僕はいつも皆から無視されてるから、誰にも気づかれないだとか、話しかけられないだとか、そういうのは慣れっこなんだよね。だから、今の状態に全然違和感がなくて……」
一息に言い終えると、虚無感に襲われ、なんだか馬鹿らしくて笑えてきた。結局僕には、生きていても死んでいても、どこにも居場所なんてないのだ。自由を求めて飛び立ったはずなのに、僕の求めた自由は、どこにも存在しなかった。
「それはそうかも知れないけど、でも、このままだとまずいんじゃないの?」
「……まずい、と思う」
だったらさ、と言いながら工藤さんは立ち上がる。
「私も協力してあげるよ。あんたの未練、なんだったのか一緒に考えてあげる」
「え……」
僕は工藤さんを見る。彼女は優しく微笑んでいた。僕はこの時、初めて彼女の笑った顔を見た気がした。気のせいかもしれないけれど、少しだけ、ほんの少しだけ胸がときめいた。
直後に聞き慣れた鐘の音が聞こえてきた。昼休みの終了を告げるチャイムだ。僕ら学生にとっては、聞きたくない音だ。同じ音なのに、授業の終わりに聞くチャイムとは、まるで違う音に感じる。それは工藤さんも同じようで、チャイムが鳴った途端、彼女の笑顔は消えた。
「じゃあ、私教室に戻るけど、神村はどうする?」
「授業が終わるまで、適当に時間潰してるよ」
「そっか。わかってると思うけど、屋上には……」
行かないよ、と工藤さんが言い終わる前に僕は言った。彼女は再び頰を緩めて、校内へと戻っていった。
僕はベンチに腰掛け、空を見上げる。雲はなく、清々しい青空が広がっていた。
「神村? 寝てんの?」
その声で目が覚めた。工藤さんが僕の顔を覗き込んでいた。目を擦り身体を起こす。どうやら僕は、いつの間にか中庭のベンチで眠ってしまったらしい。
「ごめん。寝てたっぽい」
「見たらわかるよ。とりあえず帰ろっか」
すでに授業は終わったらしく、工藤さんは僕に背を向け歩き出した。
学校を出るまで、彼女は一言も言葉を発さなかった。
校門を出た後、僕は振り返り屋上を見上げた。あの不気味な少女が、またしても僕を見下ろしていた。よく見えないけれど、薄っすらと微笑んでいるように見える。ゾッとして、僕は早歩きで彼女の視線から逃げるようにその場を離れた。
「何か、やり残したこととかないの?」
下校する生徒の群れが減ってきた辺りで、工藤さんは小声で言った。
「やり残したこと?」
「うん。何かやり残したことがあるなら、それが未練なんじゃないの?」
「うーん、ないと思う。強いて言えば、まだクリアしてなかったゲームがあるくらいかな。あ、それと連載中の漫画の続きが読めないのは心残りかも。ちょうどいいところで終わったんだよなぁ。今思えばあの漫画が読めなくなるのはかなりショック」
言い終わると、工藤さんは蔑むような目で僕を見ていた。
「それだけ?」小さくため息をつきながら彼女は言った。
「うーん、他に何かあるかなぁ。すぐに思いつくのは、それくらいかなぁ」
工藤さんはもう一度ため息をつく。
「あのねぇ、それが原因で成仏できないなら、今頃そこら中に幽霊がうろうろしてると思うよ」
彼女は辟易した表情で嘆く。
それは心外だ。工藤さんは女子だから、僕の気持ちがわからないのだ。大好きなゲームや漫画の続きが一生読めないなんて、僕にとっては、いや、世界中の男子にとってこれ以上の辛いことはないだろう。男子と女子とでは、やはり価値観が違う。わかってないなぁ、と僕は肩をすくめた。
「そんなこと言われてもなぁ。本当に、他には何も思い浮かばないんだ。……でもさ、僕はまだ死んだわけじゃないんだし、もしかしたら死んだ後、普通に成仏できるかもしれないよ」
全く根拠のないことを、僕は早口で捲し立てた。けれど、僕が成仏できないという事自体、全く根拠のない話なのだ。
「でも、遠藤さんっていう人に言われたんでしょ? このままだったら、お前は成仏できないって」
「ああ、エンドーさんね。その話も本当かどうかわからないけどね。だってさ、僕が未練ないって言ってるんだよ。本人が言ってるんだから、間違いないよ」
他の誰でもなく、僕自身がそう言っているのだ。疑いようがない。
「本当にないの? 心の奥底では、死にたくないって思ってるもう一人の神村がいるんじゃないの?」
工藤さんの言葉が、チクリと胸を刺した。確かに心の奥底では、本当は死にたくないと僕は思っているのかもしれない。もう一度やり直したい。そう思っているもう一人の僕がいるのかもしれない。
「やっぱりそうなんだ」
返答に窮した僕の心を見透かすように、工藤さんは呟いた。
「私、しょっちゅう幽霊見てるからだいたいわかるんだよね。神村を見てると、なんかどんよりしてるんだよね、オーラというか、周りの空気というか、なんかそういうの」
信じがたい話だったが、彼女は鷹揚な態度で話すので妙に説得力があった。僕は返す言葉が見つからず、黙って俯いていた。
「私、今日はもう帰るから、もう少し真剣に考えてみて。何かやり残したことはなかったか、飛び降りる前に、何か願わなかったか。まだ時間はあるんだから、もう少し考えてみて」
じゃあね、と工藤さんは片手を上げてバス停の方へ歩いていった。
気づけばずいぶん遠くへ来ていた。話に夢中になっていたから気づかなかったけれど、彼女はきっと、なるべく人がいない場所へ向かって歩いていたのだろう。傍から見れば彼女は、一人でぶつぶつ呟きながら歩いているヤバいやつ、というふうに見えているのだ。同じ学校の奴らに見られたら変な噂を流されるかもしれない。そんなリスクを背負ってまで、なぜ僕に協力してくれるのか、彼女の意図がわからない。去っていく彼女の背中を見つめながら、僕は呆然と立ち尽くしていた。
数時間彷徨った挙句、僕は自宅に戻ってきた。リビングに入ると、既に母さんは帰宅していたようで、家族三人揃って夕食を摂っているところだった。三人共言葉を発さず、黙々と料理を口に運んでいる。テレビも点けず、静かな食卓だ。彼らの表情を見るのが辛い。息が詰まりそうになって、僕は自室に駆け込んだ。
一日が終わってしまう。残りあと二十日しかないのかぁ、とぼんやり天井を眺めながら、僕は眠りについた。
翌朝、目を覚ましたのは午前九時を少し回った頃で、やばい! と思ったところで再びベッドにドカッと寝転ぶ。まだ少し、身体が反応してしまう。僕はもう、学校へ行かなくていいのだ。自嘲気味に笑った後、ため息をついた。
身体を起こしベッドの上で胡座をかき、これからどうするべきか、真剣に考えることにした。
一時間ほど考えた結果、答えが出た。というより、答えは最初から一つしかなかったのだ。
今さら僕がどう足掻いたところで死は免れない。僕が望んだことなのだ。これに関してはどうしようもない。問題は、やはりその後になる。僕が死んだ後の話だ。
エンドーさんが言うように、この世の未練を断ち切り、成仏することが僕に残された道なのだ。今の状態では僕は成仏できず、永遠に彷徨うことになってしまう。そうなってしまえば、きっと今のように自由に歩き回ったりできないのかもしれない。
あの学校の屋上にいた少女が思い出される。やっぱり、このままではだめだ。父さんや母さんのことを思うと、胸が痛んだ。息子が自殺した上に成仏できず彷徨っていることを、両親が知ったらどう思うだろうか。知る術はないにしても、あまりに心苦しく、文字通りこのままでは死んでも死に切れない。だから僕は、なんとしてでも残りの二十日間で未練を断ち切ることを決めた。
さらに一時間ほど考えたけれど、自分の未練について、思い当たる節がなかった。
とりあえず家を飛び出して、この日も僕は歩き続けた。
気づけば学校に来ていた。ちょうど昼休みだったらしく、僕の教室はいつも通り騒がしかった。
「神村のやつ、いつ学校来るんだ? あいつ殴らねえと調子狂うな」
肩を回しながら、遠山がそんなことを言っていた。僕は遠山を睨みつけた後、教室を見回した。
自分の席に座っていた工藤さんと数秒目が合うと、彼女は立ち上がって長い髪を揺らしながら教室を出た。僕は彼女の後を追う。
「なにしに来たの?」
教室を少し出たところで工藤さんは小声で言った。
「別に……家にいても暇だから」
「そう。それで、これからどうするの?」
「どうしたらいいのか、逆に教えてほしいくらいだよ」
僕がそう言っても工藤さんは黙ったまま歩き、今度は中庭へ出た。たくさんの花が植えられた中庭には、僕らの他に生徒は一人もいなかった。
「どうしたらいいって、未練を断ち切ればいいんじゃないの?」
工藤さんは中庭のベンチに腰掛けてそう言った。
「そんな簡単に言われても……。正直、あんまりピンとこないんだ」
「何が?」
「今の僕が、幽体だってことがだよ。なんか、感覚としては普段と何も変わらないんだ。いくら歩いても疲れないのと、お腹が空かないってことを除けば、通常通りなんだよね」
ふうん、と工藤さんは興味なさげに頷いた。
「それに僕はいつも皆から無視されてるから、誰にも気づかれないだとか、話しかけられないだとか、そういうのは慣れっこなんだよね。だから、今の状態に全然違和感がなくて……」
一息に言い終えると、虚無感に襲われ、なんだか馬鹿らしくて笑えてきた。結局僕には、生きていても死んでいても、どこにも居場所なんてないのだ。自由を求めて飛び立ったはずなのに、僕の求めた自由は、どこにも存在しなかった。
「それはそうかも知れないけど、でも、このままだとまずいんじゃないの?」
「……まずい、と思う」
だったらさ、と言いながら工藤さんは立ち上がる。
「私も協力してあげるよ。あんたの未練、なんだったのか一緒に考えてあげる」
「え……」
僕は工藤さんを見る。彼女は優しく微笑んでいた。僕はこの時、初めて彼女の笑った顔を見た気がした。気のせいかもしれないけれど、少しだけ、ほんの少しだけ胸がときめいた。
直後に聞き慣れた鐘の音が聞こえてきた。昼休みの終了を告げるチャイムだ。僕ら学生にとっては、聞きたくない音だ。同じ音なのに、授業の終わりに聞くチャイムとは、まるで違う音に感じる。それは工藤さんも同じようで、チャイムが鳴った途端、彼女の笑顔は消えた。
「じゃあ、私教室に戻るけど、神村はどうする?」
「授業が終わるまで、適当に時間潰してるよ」
「そっか。わかってると思うけど、屋上には……」
行かないよ、と工藤さんが言い終わる前に僕は言った。彼女は再び頰を緩めて、校内へと戻っていった。
僕はベンチに腰掛け、空を見上げる。雲はなく、清々しい青空が広がっていた。
「神村? 寝てんの?」
その声で目が覚めた。工藤さんが僕の顔を覗き込んでいた。目を擦り身体を起こす。どうやら僕は、いつの間にか中庭のベンチで眠ってしまったらしい。
「ごめん。寝てたっぽい」
「見たらわかるよ。とりあえず帰ろっか」
すでに授業は終わったらしく、工藤さんは僕に背を向け歩き出した。
学校を出るまで、彼女は一言も言葉を発さなかった。
校門を出た後、僕は振り返り屋上を見上げた。あの不気味な少女が、またしても僕を見下ろしていた。よく見えないけれど、薄っすらと微笑んでいるように見える。ゾッとして、僕は早歩きで彼女の視線から逃げるようにその場を離れた。
「何か、やり残したこととかないの?」
下校する生徒の群れが減ってきた辺りで、工藤さんは小声で言った。
「やり残したこと?」
「うん。何かやり残したことがあるなら、それが未練なんじゃないの?」
「うーん、ないと思う。強いて言えば、まだクリアしてなかったゲームがあるくらいかな。あ、それと連載中の漫画の続きが読めないのは心残りかも。ちょうどいいところで終わったんだよなぁ。今思えばあの漫画が読めなくなるのはかなりショック」
言い終わると、工藤さんは蔑むような目で僕を見ていた。
「それだけ?」小さくため息をつきながら彼女は言った。
「うーん、他に何かあるかなぁ。すぐに思いつくのは、それくらいかなぁ」
工藤さんはもう一度ため息をつく。
「あのねぇ、それが原因で成仏できないなら、今頃そこら中に幽霊がうろうろしてると思うよ」
彼女は辟易した表情で嘆く。
それは心外だ。工藤さんは女子だから、僕の気持ちがわからないのだ。大好きなゲームや漫画の続きが一生読めないなんて、僕にとっては、いや、世界中の男子にとってこれ以上の辛いことはないだろう。男子と女子とでは、やはり価値観が違う。わかってないなぁ、と僕は肩をすくめた。
「そんなこと言われてもなぁ。本当に、他には何も思い浮かばないんだ。……でもさ、僕はまだ死んだわけじゃないんだし、もしかしたら死んだ後、普通に成仏できるかもしれないよ」
全く根拠のないことを、僕は早口で捲し立てた。けれど、僕が成仏できないという事自体、全く根拠のない話なのだ。
「でも、遠藤さんっていう人に言われたんでしょ? このままだったら、お前は成仏できないって」
「ああ、エンドーさんね。その話も本当かどうかわからないけどね。だってさ、僕が未練ないって言ってるんだよ。本人が言ってるんだから、間違いないよ」
他の誰でもなく、僕自身がそう言っているのだ。疑いようがない。
「本当にないの? 心の奥底では、死にたくないって思ってるもう一人の神村がいるんじゃないの?」
工藤さんの言葉が、チクリと胸を刺した。確かに心の奥底では、本当は死にたくないと僕は思っているのかもしれない。もう一度やり直したい。そう思っているもう一人の僕がいるのかもしれない。
「やっぱりそうなんだ」
返答に窮した僕の心を見透かすように、工藤さんは呟いた。
「私、しょっちゅう幽霊見てるからだいたいわかるんだよね。神村を見てると、なんかどんよりしてるんだよね、オーラというか、周りの空気というか、なんかそういうの」
信じがたい話だったが、彼女は鷹揚な態度で話すので妙に説得力があった。僕は返す言葉が見つからず、黙って俯いていた。
「私、今日はもう帰るから、もう少し真剣に考えてみて。何かやり残したことはなかったか、飛び降りる前に、何か願わなかったか。まだ時間はあるんだから、もう少し考えてみて」
じゃあね、と工藤さんは片手を上げてバス停の方へ歩いていった。
気づけばずいぶん遠くへ来ていた。話に夢中になっていたから気づかなかったけれど、彼女はきっと、なるべく人がいない場所へ向かって歩いていたのだろう。傍から見れば彼女は、一人でぶつぶつ呟きながら歩いているヤバいやつ、というふうに見えているのだ。同じ学校の奴らに見られたら変な噂を流されるかもしれない。そんなリスクを背負ってまで、なぜ僕に協力してくれるのか、彼女の意図がわからない。去っていく彼女の背中を見つめながら、僕は呆然と立ち尽くしていた。