沈みゆく太陽を、学校の屋上から眺めていた。
 これがきっと、僕が見る最期の景色となるだろう。
 この太陽が沈みきったら、ここから飛び降りよう。
 そう心に決めて、僕はオレンジ色に輝く夕陽を眺めていた。
 風がびゅうっと吹いて、身体がよろける。まだ、太陽は沈まない。
 眩しさに目を細めて、僕は辛かった日々を回顧する。

 高校生になったら、僕は変われると思っていた。きっと、何かが大きく変わると思っていた。でも結局、僕は僕だった。
 中学の頃から僕は、同級生から酷いいじめを受けていた。でもそれは中学を卒業したら終わるはずだ。そう自分に言い聞かせて、今までずっと耐えてきた。
 けれど高校生になっても、僕はいじめから解放されることはなかった。

 中学時代、僕をいじめていた奴らとは別の高校を選んだというのに、僕はまたしてもターゲットになってしまった。
 僕の存在価値は、いじめっ子のストレス発散と暇つぶしの相手になることだけなのだ。
 この世界に、僕の居場所はない。
 彼らに立ち向かう勇気も、僕にはない。
 だから僕は、自分を殺す道を選んだ。

 太陽が、地平線に触れた。
 ゆっくりと欠けていく太陽を、僕は瞬きもせずに見つめる。ゆっくりと、ゆっくりと太陽は沈んでいく。
 ここから飛び降りた先に待っているのは、死だ。四階建ての学校の屋上から飛び降りるのだから、当然待っているのは死だ。疑いようがない。でも、それだけではない。
 僕を待っているのは死と、もう一つは自由だ。
 ここから飛び降りると、自由が待っている。それはここ数年間、僕がずっと欲しかったものだ。
 輝いていた太陽が、光が消えていく。僕の命の光も同様に、あと僅かで消えてしまう。
 太陽を凝視していたせいか、沈んでもなお残像が消えない。
 やっぱり飛び降りるのは、残像が消えてからにしよう。
 僕は目を瞑る。まぶたの裏にも、太陽の残像が残っていた。

 父さん、母さん、それから弟の竜に、ペットのコロ吉。今までありがとう。それから、ごめん。

 最後に──

 僕は目を開けて、後ろ手に掴んでいたフェンスから手を離し、胸いっぱいに空気を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
 さようなら、みんな。
 軽く助走をつけて、僕は飛び立った。
 自由を求めて、大空へ飛び立った。
 けれど身体は、無情にも地面へと引っ張られる。空中でいくら踠いても、何も掴めやしない。
 僕の身体は一直線に落下していく。死という名の、自由を目掛けて。
 これで僕は、自由になれる。
 嬉しさなのか、怖さなのかはわからない。涙が一粒、上空へ零れたのが見えた。同時に、鈍い音が脳内に響いた。