月灯りを頼りに森の奥へ奥へ進んでいくと、突然開けた場所に出る。目の前の美しい湖に思わず息をのむ。



ここは隠れた名所で、“満月鏡(まんげつきょう)”と呼ばれている不思議な言い伝えのある湖。満月の夜にだけ、心に残る最も深い想い人と繋がれるというロマンチックなものだ。


どうせ言い伝え――そう思いつつも今この場所にいるのだから、説得力の欠片もない。



辺りは穏やかそのもので、静まり返っている。虫の声ひとつしない。そもそも、生き物の息づかいがまったくしない。



水面にはさくらの花弁が漂う。季節など最近忘れてしまっていたが、もう春なのか。春だったのかと少女は思った。この周囲にさくらの木はないから、風でどこからか旅をしてきたのだろうか。



ちくりと胸が痛む。


貴方と旅に出た。


貴方との旅路の終わりは、心に深い影を落とした。



どうして去ったの。


どうして何も言ってくれなかったの。