晴天の五月はすごく暑くてこんな時にBBQをするなんて、本当にアホらしいと私は思う。
ワイシャツを着た男が私にウザい絡みをしてくる。
「志音! もっと食え!」
そう言って、彼は私の皿に肉を大量のいれてきた。
昔から少食であんまり食べれない。
「ちょ、ちょっと、心崎さん! こんなに食べれませんって!」
心崎は、やたらと私に絡んでくる。
これも、保護観察の一部なんだろうかと思うくらいだ。もう終わってるはずだけど、油断はできない。
「いやいや、普段から結構な数の仕事こなしてくれてるだろ? だから今日くらいは食えって」
相変わらず、強引な人だと思う。あの子ならうまく対処できるんだろうけど、私は違うから、あんまり対処は出来ない。
大量の肉を少しずつ口にいれる。
柔らかくてかつ、脂っこくないから美味しい。
「シオンちゃん、お酒飲む?」
メイメイは、そう言って、私にお酒の缶を出してくれた。
本当はメイメイって呼びたいけど、立場上は私の上司の奥さんなので、敬語を使う。
「命さん、ありがとうございます。いただきます」
「うん。今日は楽しんで」
メイメイは、柔らかく微笑むと、紙コップにお酒を注いでくれた。
「お母さん! ただいま!」
「はぁ、葵菜ちゃん速いわ……。待ってや……」
声の方に振り向くと、そこには今年で八歳になる葵菜ちゃんと三年前より少しチャラくなった桜ちゃんがいた。
「しーちゃん、遊ぼ!」
葵菜ちゃんは私のことを『しーちゃん』と呼んでいる。
あだ名で呼ばれるなんて初めてだからなんだかむず痒い。
私は少しほろ酔いになりながら、葵菜ちゃんと遊ぶため芝生に行く。
葵菜ちゃんはバトミントンが上手だ。
「それっ! あ、しーちゃん、ごめんー!」
これでも三十代だから、やはり小学生の尽きない体力には勝てない。
「ふぅ……。ごめんね、ちょっと休憩、していい?」
「う、うん。ゆっくり休んで」
小学生に気を使われる三十代の女、ダサすぎるのにも程がある。
葵菜ちゃんと話ながら、私は心崎さんたちのところへ戻る。
「しーちゃんは、お父さんたちのお友達?」
私ではないけど、あの子はそうだったから、
「うん、そうだよ」
そう答える。
あの子のおかげで私はこうして救われたのだから。
両親が生きていた頃、私は結菜のように明るい人間だった。
けれど、強盗が家に入って、両親を殺した。
私が見つからなかったのは奇跡だと言ってもいい。
押し入れの中に隠れて、お母さんやお父さんの悲鳴を聞きながら、必死で涙をこらえていた。
その強盗が捕まったのか私には分からない。
そうして、新しい親が私を育ててくれた。
智子さんと穂さん。
私の叔母さんと叔父さんだった人たちと暮らす。
あの時はお母さんとお父さんが死んだことがショックで私はどんな生活をしていたのか分からない。
嫌になって、私はいつの間にか、明るくて人聞きのいい自分を演じた。
叔母さんたちはびっくりしていたけど、私を違う名前で呼んでくれた。
『結菜ちゃん』って。
演じるのは癖になって、私は日常的にもう一人の私で過ごすようになった。
そうすることで友達も増えて、人気者になったから。
そして、私はいつの間にか高校生になっていた。
高校生になって、私は初めて自分の人格で通学した。
けれど、それは失敗だった。
私は数々の問題を引き起こしてしまって、自主退学した。
そして、私自身では生きていけないのだと知った。
別の高校に転校した時、私は出会う。
『この学校に転校してきましたっ! 飯島結菜です。よろしくお願いします!』
私は結菜を装い、転校生の挨拶を済まし、根暗そうな男子の隣の席になった。
『よろしくねっ!』
そう告げると、彼は恥ずかしそうに頷いた。
名前は不知蒼。
のちに、結菜の彼氏になる存在で、私の初恋の人だ。
ちなみに、私は刑期を終えてから、不知家に向かった。
そこで、彼女のお姉さんである茜さんとお母さんである碧さんにお話を聞いた。
碧さんの旧名は私と同じ長谷川だったのだ。
話を聞くと、私のお父さんとは兄妹らしく、私たちは従兄妹同士でだった。
気づかないところで繋がっていたと知る。
話を戻すと、そんな彼は読書が趣味で本当に隙あれば本を読んでいた。
成績もそれなりによかったが、友達があまりいなかった。
でも、彼は結菜に会ってから変わり始めた。
心崎とメイメイの幼馴染みだと言うことは知らなかったし、桜ちゃんや陽菜ちゃんとも、仲良く関われるようになっていった。
いつの間にか、私たちは彼と関わる内に恋をしてしまった。
そして、結菜は、想いを伝えてしまった。
蒼君は、結菜のことが好きだった。
私が好きじゃなかったのだと思い知らされた。
やはり、私では、生きていけない。
そうして、私は彼と初デートを楽しんだ。
結菜ではなく、私として楽しんだ。
でも、蒼君の両親の疑問によって私は痛みを思い出してしまった。
そして、怖くなって蒼君を殺してしまった。
後悔した時、私は私で生きていくことを決めたのだ。
それが、結菜が消えた理由。
でも、そんな私を一人の人間として見てくれた人たちがいる。
本当に、心崎やメイメイ、桜ちゃんには感謝でしかない。
私たちが恋をしてしまった蒼君はもう、居ない。
けれど、前を向いて進まなきゃ。
私は、きっと理解されないだろう。
私は、事故中心的な考え方だと思われるだろう。
これから、きっとまだまだ悲しいこともあるだろう。
でも、もう大丈夫。
私には、信じている自分がいるから。
ペンギンのような私が恋をしてしまった君にまた会えるその日まで。
《終》
ワイシャツを着た男が私にウザい絡みをしてくる。
「志音! もっと食え!」
そう言って、彼は私の皿に肉を大量のいれてきた。
昔から少食であんまり食べれない。
「ちょ、ちょっと、心崎さん! こんなに食べれませんって!」
心崎は、やたらと私に絡んでくる。
これも、保護観察の一部なんだろうかと思うくらいだ。もう終わってるはずだけど、油断はできない。
「いやいや、普段から結構な数の仕事こなしてくれてるだろ? だから今日くらいは食えって」
相変わらず、強引な人だと思う。あの子ならうまく対処できるんだろうけど、私は違うから、あんまり対処は出来ない。
大量の肉を少しずつ口にいれる。
柔らかくてかつ、脂っこくないから美味しい。
「シオンちゃん、お酒飲む?」
メイメイは、そう言って、私にお酒の缶を出してくれた。
本当はメイメイって呼びたいけど、立場上は私の上司の奥さんなので、敬語を使う。
「命さん、ありがとうございます。いただきます」
「うん。今日は楽しんで」
メイメイは、柔らかく微笑むと、紙コップにお酒を注いでくれた。
「お母さん! ただいま!」
「はぁ、葵菜ちゃん速いわ……。待ってや……」
声の方に振り向くと、そこには今年で八歳になる葵菜ちゃんと三年前より少しチャラくなった桜ちゃんがいた。
「しーちゃん、遊ぼ!」
葵菜ちゃんは私のことを『しーちゃん』と呼んでいる。
あだ名で呼ばれるなんて初めてだからなんだかむず痒い。
私は少しほろ酔いになりながら、葵菜ちゃんと遊ぶため芝生に行く。
葵菜ちゃんはバトミントンが上手だ。
「それっ! あ、しーちゃん、ごめんー!」
これでも三十代だから、やはり小学生の尽きない体力には勝てない。
「ふぅ……。ごめんね、ちょっと休憩、していい?」
「う、うん。ゆっくり休んで」
小学生に気を使われる三十代の女、ダサすぎるのにも程がある。
葵菜ちゃんと話ながら、私は心崎さんたちのところへ戻る。
「しーちゃんは、お父さんたちのお友達?」
私ではないけど、あの子はそうだったから、
「うん、そうだよ」
そう答える。
あの子のおかげで私はこうして救われたのだから。
両親が生きていた頃、私は結菜のように明るい人間だった。
けれど、強盗が家に入って、両親を殺した。
私が見つからなかったのは奇跡だと言ってもいい。
押し入れの中に隠れて、お母さんやお父さんの悲鳴を聞きながら、必死で涙をこらえていた。
その強盗が捕まったのか私には分からない。
そうして、新しい親が私を育ててくれた。
智子さんと穂さん。
私の叔母さんと叔父さんだった人たちと暮らす。
あの時はお母さんとお父さんが死んだことがショックで私はどんな生活をしていたのか分からない。
嫌になって、私はいつの間にか、明るくて人聞きのいい自分を演じた。
叔母さんたちはびっくりしていたけど、私を違う名前で呼んでくれた。
『結菜ちゃん』って。
演じるのは癖になって、私は日常的にもう一人の私で過ごすようになった。
そうすることで友達も増えて、人気者になったから。
そして、私はいつの間にか高校生になっていた。
高校生になって、私は初めて自分の人格で通学した。
けれど、それは失敗だった。
私は数々の問題を引き起こしてしまって、自主退学した。
そして、私自身では生きていけないのだと知った。
別の高校に転校した時、私は出会う。
『この学校に転校してきましたっ! 飯島結菜です。よろしくお願いします!』
私は結菜を装い、転校生の挨拶を済まし、根暗そうな男子の隣の席になった。
『よろしくねっ!』
そう告げると、彼は恥ずかしそうに頷いた。
名前は不知蒼。
のちに、結菜の彼氏になる存在で、私の初恋の人だ。
ちなみに、私は刑期を終えてから、不知家に向かった。
そこで、彼女のお姉さんである茜さんとお母さんである碧さんにお話を聞いた。
碧さんの旧名は私と同じ長谷川だったのだ。
話を聞くと、私のお父さんとは兄妹らしく、私たちは従兄妹同士でだった。
気づかないところで繋がっていたと知る。
話を戻すと、そんな彼は読書が趣味で本当に隙あれば本を読んでいた。
成績もそれなりによかったが、友達があまりいなかった。
でも、彼は結菜に会ってから変わり始めた。
心崎とメイメイの幼馴染みだと言うことは知らなかったし、桜ちゃんや陽菜ちゃんとも、仲良く関われるようになっていった。
いつの間にか、私たちは彼と関わる内に恋をしてしまった。
そして、結菜は、想いを伝えてしまった。
蒼君は、結菜のことが好きだった。
私が好きじゃなかったのだと思い知らされた。
やはり、私では、生きていけない。
そうして、私は彼と初デートを楽しんだ。
結菜ではなく、私として楽しんだ。
でも、蒼君の両親の疑問によって私は痛みを思い出してしまった。
そして、怖くなって蒼君を殺してしまった。
後悔した時、私は私で生きていくことを決めたのだ。
それが、結菜が消えた理由。
でも、そんな私を一人の人間として見てくれた人たちがいる。
本当に、心崎やメイメイ、桜ちゃんには感謝でしかない。
私たちが恋をしてしまった蒼君はもう、居ない。
けれど、前を向いて進まなきゃ。
私は、きっと理解されないだろう。
私は、事故中心的な考え方だと思われるだろう。
これから、きっとまだまだ悲しいこともあるだろう。
でも、もう大丈夫。
私には、信じている自分がいるから。
ペンギンのような私が恋をしてしまった君にまた会えるその日まで。
《終》