遺影に映った友人の姿は、いつでも俺の名前を呼んでくれそうなそんな笑顔だった。

 いつも無表情で、人に興味がなくて、デリカシーがなくて。

 気休め程度に人付き合いをするやつ。

 きっと、お前が生きてくれていたら、俺たちは今頃、酒を飲んで笑いあえるんだろうな。

 仏壇の前で、拝む。

 これから俺たちのことを見守っていてくれと、一生懸命願う。

「……久しぶり。心崎君、その、立派になって」

「いえいえ、(あかね)さんこそ、今、何ヵ月ですか?」

 蒼のお姉さん──茜さんのお腹はかなり大きくなっている。

「八ヶ月よ」

「おー……。あともう少しですね」

「葵菜ちゃんと仲良くできるかしら」

「できますよー!」

「性別が分かったら教えてくださいね!」

「もちろんよ」

 赤ちゃんトークで盛り上がるのも程ほどに、俺は本題を切り出す。

「実は、今日お伺いしたのは蒼の事件についてのことなんです」

 そういうと茜さんの表情が一気に曇ったのが分かった。

「茜さんは、蒼の事件についてどこまでご存じですか?」

「犯人が付き合っていた結菜という女の子ってことね。蒼はまったくなにも残さないから」

「たしかに、蒼を刺したのはその子です。ですが、彼女は二重人格なんです」

「えっ?」

 茜さんから疑問符が浮かんだ。

 そりゃ、そうだ。

 俺が茜さんの立場ならそうするだろう。

「さきほど、飯島家に行ってきまして、彼女の義母である方からお話を伺いました。飯島結菜は正真正銘の二重人格です。蒼を殺したのは、もう一人の人格だと俺は思っています」

「もちろん、この事実を信じて欲しいとは思っておりません。そんなことで蒼は帰ってきませんから。ですが、もし、飯島が殺したのではなく、そのもう一人の人格が殺したなら、彼女は許されるべきなのではないでしょうか」

 別人格によって自分が壊されることなんてあっていいわけないのだ。

 でも、被害者の気持ちも無視できない。

 俺は、今日、確かな証拠をつかんだ。

 あとは、再審の日にこの証拠をぶつける。