ペンギンのような君に恋をしてしまった僕

 神田が向かったのは、俺たちが住む地域の隣町だった。

 車の中で葵菜が興奮してうるさかったため、連れてこない方がよかったか? と思ったが、神田は嫌な顔ひとつもせずに、車を走らせていた。

「パパぁ! きいろのはっぱたくさん!」

「葵菜ちゃん、それは紅葉って言って葉っぱがみんな黄色くなるんだよ」

「こーよー? こーよー、すごい!」

 こんな感じで、神田は葵菜に説明する。

 子供の疑問なんて都会じゃ尽きないだろうにそれに付き合ってくれるのは、ありがたい。

 そして、同時に葵菜に色々と教えていたのが俺だったので、神田に少し嫉妬している。

 それから、車を走らせること数分。

 ひとつのビルに停まった。

「さて、着いたよ。ようこそ、坂本弁護事務所へ」

 神田は再会した時のような丁寧な口調になって、俺たちを案内する。

「パパぁ、ママぁ! おおきいすべりだい!」

 俺たちは葵菜のぶっとんだ発言に苦笑してしまった。

 エスカレーターのことをすべり台だと思っているのだろう。

「葵菜、これはエスカレーターって言って、人を運ぶものなんだよ。あと、ここでは静かにな」

 俺は人差し指を口元に近づける。

 幼稚園では、きっとこれが静かにするということを習っているはずだ。

 葵菜は、それを理解したようで、こくりとうなずいた。

「……しー! ぱぱ、えすかれーたー、すごい」

 律儀にも静かにするのだから、本当に偉いと思う。

「ふふっ、すっかり輝君はパパさんだね」

「おう、可愛い娘がいるからしっかりしねぇとな」

 エスカレーターから降りて、神田についていくと、そこは小会議室だった。

「待ってて」

 神田は扉をノックし、中に入る。

 俺たちに話がある人物がここにいる。

 その人物との対面に少なからず、緊張していた。

 足音が扉に近づいてくるにつれ、俺の緊張も高まってくる。

 ガラリと扉が開き、

「ごめんなぁ! ちょっと会議長引いちゃったわ。二人とも久しぶりやな!」

 軽い口調ででてきた女は話す。

 この関西弁が特徴的な話し方をする知人は彼女しかいない。

「久しぶりだな。坂本」

 そこには、高校の頃、一番の女友達だった坂本(さかもと)(さくら)がいた。