翌日。

 6月になって三回目の土曜日に僕は地下鉄に乗り込む。

 ガタンゴトンと2駅分電車に揺られ、僕らが住んでいる隣の地域にある 新黄(しんおう)駅で下車する。

 なんでこんな真っ昼間から地下鉄に乗る理由はそこにあるこの地域最大の図書館に行きたいからだ。

 そこの図書館には、百万冊ほどの本、人気映画、アニメのDVDまで置いてある。

 図書館までの道のりで駅から近くにあった安くて美味しいが売りのファミリー向けレストランに向かう。

 ちょうどお腹が空いていた。

 僕はそこでミートパスタを頼む。

 ミートパスタを待っている間、伊達眼鏡をかけて、アニメ化されたWEB発のファンタジー小説の「火星が導く異世界道」を読む。

 この作品は、僕のファンタジー小説の中で第2位の作品だ。

 主人公が強すぎるけど、読んでいて飽きさせない書き方をしているから僕はこの作品はお気に入りだ。

 時間的に昼頃だからザワザワと賑わう店内をBGMにしながら、小説の世界に没頭する。

「あっ、不知くん!」

 昨日も聞いた聞き覚えがある声で自分の名前を呼ばれたので無意識に反応してしまう。

 手を振りながら歩いてくる少女はフワッとしているセミロングの髪を一つにまとめている。

 ポニーテールという髪型だろうか。

 一時期オシャレに目覚めてアカ姉に借りた雑誌に【ポニーテール女子の落とし方】と書いていた特集にこの髪型をしたモデルさんがイケメンと写真の中でイチャイチャしていたのを覚えている。

 別にどうでもいいけど。

 彼女の服装は白を基調としたワンピースで、ボタンが花柄になっているアカ姉も良く着ているもののブランドの服だ。

 髪の長さとも合っていて普通に可愛いと思う。

 飯島さんの後ろに二人の女の子。

 きっと、クラスメイトだろう。

結菜(ゆな)~、どうしたの? あっ、えーと、この子名前なんだっけ?」

 いかにもリア充そうなロングヘアーの女の子がダルそうに飯島さんに話しかける。

 まぁ、名前覚えられてなくて当然だと思う。

 僕も彼女の名前を覚えていない。

 というか、学校の女の子は飯島さんしか覚えていないかも知れない。

「教室で結構本読んでる子やん! えっ、分からん。なんやったっけな。ハハッ」

 関西弁が特徴な金髪のギャルみたいな女の子はよく笑う。

 一体なにがそんなに面白いのだろうか。

 自分自身にプラスの価値観を持っていそうな子だなと思った。

 なんにせよ、お近づきにはなりたくないタイプの人間だ。

 微笑する友達二人に少しムッとした表情で飯島さんは、

「この子、不知くんだよっ! 不知(あおい)くん!」

「あ~、不知ね……。心崎(しんざき)が言ってた子やな」

(ひかる)君かっこいいよね!」

「心崎くんって?」

 人気者だから、アイツは名前を出されて当然だと思った。

 僕は隣の2年C組のカーストトップの心崎輝の腐れ縁兼幼馴染みで小学校の頃からずっと一緒にいる。

「あっ、そうか。結菜はまだ輝君の事知らないよね」

「心崎はちょっと不良みたいで怖いけど話してみ! めっちゃおもろいから!」

「へぇ~。不知くんはその心崎くんの事知ってるの?」

 なんで僕に会話を振るのだろうか。

 明らかに二人はなんでコイツに話を振るんだよとイラついているのを半分、コイツと飯島さんは仲が良いと驚いた顔半分で見ているのに。

 それを飯島さんは気付いていないのか、もしくは、これは何かの嫌がらせだろうか。

 僕がそういう経験に陥った事は無いが、僕の幼馴染み、そして、輝の彼女が過去にこの部類の嫌がらせによってあまり人と関わらなくなった。

 彼女は、今でも口数は少ないし、人と無闇に関わろうとしない。

 幸か不幸か、そのおかげで僕らの仲は更に良くなったのだけれど。

 その話はまた、今度。

 輝に絡まれた時に追い追いすればいい。

 知っていないと嘘をついてもいずれ絡まれている所を見られると分かるので嘘はつかずに、

「知ってるよ。というか小学校の時からずっと一緒にいたから」

 それを聞いた飯島さんの友達二人は急に態度を一転させて、

「えっ、マジマジ? 心崎ってどんな子やったん?」

 ロングヘアーの女の子、金髪のギャルの女の子、飯島さんの順に僕の正面に座られた。

 それは、成績の悪い小学生が学年主任、担任の先生、そして母親に怒られるような状況を想起させる。

 それからは、飯島さんの友達二人からの質問攻めだった。

 一人でゆっくりしようとしていたのに思わぬハプニングが起こった。

 彼女らに気づかれないように僕は小さくため息をついた。