水族館に戻り、再入場すると、変化があった。

 朝、受付前にいたクラゲはライトアップのためからか水槽からいなくなっており、館内の電灯が暗くなっていた。

 僕は、結菜がはぐれないように彼女の手を握る。

 少しビクッとしたのか手に振動が伝わったが、それはすぐに収まって結菜が手を握り返してくれた。

 やはり、昼と夜では全然違った。

 昼ではいきいきと元気よく泳いでいた魚も、夜になればそれほど活発に動かなくなる。

 寝ているのか、じっとしてることが多い。

 だからか、どこか水槽内が寂しく感じる。

 結菜が言っていたペンギンコーナーを向かうと、そこには昼と同じく人だかりが沢山できていた。

 やはり、ペンギンは昼夜関わらず、人気のようだ。

 しかし、ペンギンたちは誰も泳いでいなかった。

 飼育スペースで身を寄せ合いながら、寝ていた子がほとんどだった。

 その中でも、起きているペンギンが数匹いて、そのなかの二匹がユナペンギンとアオイペンギンだと気がつく。

「あ、アオイだー!」

「なんか、僕が呼ばれているみたい」

「アオイはアオイでしょ?」

「まぎわらしいね」

 ユナペンギンは、アオイペンギンの体に寄り添って寝ようとしている。

 アオイペンギンは、そんなユナペンギンに『おやすみ』とひと鳴きして、自身もユナペンギンに体を預けた。

 同じ角度で寄り添い、寝ている姿を見ているとなんだかこっちが恥ずかしくなる。

 同じ名前だからなおさらだ。

 結菜が僕の手を握る力が少し強くなった気がした。

「……私たち、ラブラブだね」

「そうだね」

 僕も少し結菜の手に力を入れて握る。

 ペンギンも、僕たちも。

 本当に仲良しだ。

 僕は思う。

 君とデートを出来て幸せだと。

 そして、この幸せを何回も繰り返して、ずっと幸せを感じて生きていきたい。

 ──大好きだよ、結菜。

 口に出そうになった甘い言葉はまだとっておこう。

 これは、ライトアップの時に言いたいから。

 お互い、ペンギンを見ながら、手を握りあっていると、ライトアップが開始されるという放送が流れた。

「ライトアップ、行こうか」

「うん」

 結菜につられて、僕は歩き出す。

 ユナペンギンとアオイペンギンは、もう夢の中で一緒に泳いでいるのだろうか。

 それとも、楽しそうに魚を食べているのだろうか。

 どちらにせよ、僕らは幸せだ。

 デートの終盤、僕は確かに幸せを感じた。