ペンギンのような君に恋をしてしまった僕

 結菜はトイレの前でスマホをいじって待っていた。

「蒼君、おかえり! どこ行ってたの?」

「あぁ、ちょっと飲み物を買いにね」

「そっか。遅かったね」

 結菜の声のトーンが少し落ちているのに気がついた。

「ほ、本当だよ。混んでいたから遅くなって」

「ふふっ。分かってるよぉ。試しただけ」

 どうやら、また遊ばれたらしい。

「もうすぐライトアップの時間だね」

「そうだね! 楽しみ!」

 結菜は今日一日ずっとウキウキルンルン気分だ。

 これ以上、嬉しいことはない。

 夜のライトアップまではまだ時間があるので、僕らは早めの夕食を食べることにした。

 水族館近くにあるファミレスに移動する。

「結菜、なに食べるの?」

 肘を机において両手にほっぺをつけながら、結菜は考えるそぶりを見せて、

「んー、なに食べようかな。ピザふたりで分けようよ! あんまり私お腹空いていないからさ」

「そうしようか」

 ピザを注文して、水を飲みながら、僕らは雑談をしていた。

「ペンギン、可愛かったね」

「でしょ! 蒼君にペンギンの可愛さが伝わってよかったよ! あ、ライトアップ行くときに水族館に着いたらペンギンコーナーに戻っていい?」

「いいけど……。なんで?」

「夜はペンギンも寝る時間だから、あそこでいるペンギンたちも眠たくて寝ちゃう子がいるはずなんだよね! ペンギンの寝顔ってとっても可愛いから、私見ておきたいんだ!」

「なるほどね。それならペンギン見に行ってからライトアップ見ようか」

 僕は夜の水族館自体行くのが初めてで、昼と夜ではまた感じ方が違うのだろう。

 本当に楽しみだ。

 僕らの会話が途切れたタイミングでピザが届いた。

「さ、食べよ!」

 結菜がピザカッターで六等分に分け、僕にピザを向ける。

「ありがとう」

 手で取ろうとすると、ペチと軽く叩かれた。

 え? なんで?

「蒼君、よく見て」

 結菜はジト目でそう言う。

 結菜が僕にピザを向けてくれている。

 僕が取ってはいけない。

 まさか、これが。

 彼女のあーんなのか。

「あ、あーん」

 僕がドキドキしながら口を開けると、結菜はやっと分かってくれたと言わんばかりにピザを口の中に入れてくれた。

 僕が結菜のあーんを食べ終えると、まだ五枚残っていた。

 結菜はピザを取ろうとしないということは、僕が結菜にあーんをしろと言うことだろう。

「結菜、あーん」

 僕がピザを近づけると、結菜は笑顔で口を開けた。

「あーん。んー! ピザおいひい!」

 満面の笑みでピザを咀嚼(そしゃく)する結菜。

 本当に美味しそうに食べるな。

 将来、CMに出れそうな気がする。

 僕はもう一度、あーんをするのかと思っていたけど、早めに水族館に戻るには毎回あーんをするわけにもいかないので、ここで終了することになった。

 あーんタイムを終えた僕らは、ライトアップの話をしながら、ピザを食べる。

「今回のライトアップだけどね、クラゲコーナーだけじゃなくてプロジェクションマッピングを使って床とかも光るみたいだよ!」

 ホームページに書いてあったよと結菜はスマホをこちらに見せる。

 トイレ前で待っている間に見つけたのだろう。

「すごいね。僕らいいときに来たね」

「これも蒼君のおかげだよ! ありがとう!」

「こちらこそ。デートに付き合ってくれてありがとう」

 僕らはお互いを見てクスリと笑い合う。

 最後の一枚のピザに手を伸ばした時、ちょうど結菜も食べようとしていたのだろう、彼女の指に触れた。

「蒼君、食べてよ」

「いや、結菜が食べて」

 結菜が蒼君がと言うので、僕は食べる。

 それから、どちらからもそろそろ行こうかという雰囲気が流れたので、僕らはファミレスを後にした。

 さて、戻って、ライトアップとペンギンを見よう。