ペンギン触れ合いコーナーには、やはりここの人気コーナーのひとつというだけあって、沢山の人で長い行列が出来ていた。

「さいしょはぐー! じゃんけんぽん! 勝ったー!」

 結菜は僕のほっぺたをつねる。

「たてたてよこよこまるかいてまるかいてちょん!」

 上下左右にほっぺたを動かされたあと、二回円を描かれて、最後思いっきり伸ばされた。

「いったぁ……」

「蒼君のほっぺた、プニプニだねー! それによく伸びるし」

「うー……。結菜、じゃんけん強いね」

「私は神様に愛されてるからね!」

「縁結びの神様とペンギンの神様に?」

「あとひとり神様いるよ」

「なんだろ……」

「蒼君がきっと一番愛されている神様の名前は?」

「小説の神様」

「だよ! ゴッツラブミー!」

 結菜のきれいな発音はともかく、自分から言っておいてだが、ペンギンの神様ってなんなの。

「そういえば、結菜は自分を動物に表すならなに?」

「間違いなく、ペンギン!」

「だよね。僕はなに?」

「蒼君は、猫だね! 普段はそっけない態度でツンツンしているけど、デレを引き出したら可愛いからね!」

「どっちかって言うと、僕は犬じゃない?」

「んー、犬ってほど人懐っこい性格じゃないしね」

 確かにそう思う。

「そうだね、さ、じゃんけんの続き。次は勝つよ」

「私だって負けないよ!」

 それから三回勝負をしたが僕が結菜のほっぺたを触ることはなかった。

 そうこうしている間に、僕らはペンギンと触れ合えるようになった。

 結菜は間近でペンギンを見てから、もう興味はそっちに移っていた。

「可愛いー! フサフサ!」

 この時を夢にまで見ていたのだろう。

 顔をほころばせて、もうずっと見ていれそうな笑顔でペンギンを愛でていた。

 ほとんどのペンギンは結菜の方へ行った。

 えー、なんか悲しい。

 さすがは、ペンギンの神様に愛されし少女。

 僕の方へヨチヨチと歩いてきてくれた一匹で行動していたペンギンに餌を手渡すと、なぜかプイッとそっぽを向かれた。

 でも、そのペンギンはもう一度こちらに来てくれて、餌をくれと言わんばかりにひと鳴きした。

 僕はそのペンギンにめがけて、餌であるカットされた魚の切り身を放り投げると、くちばしを伸ばして、見事にキャッチした。

「なんだかその子、蒼君に似ていない?」

 結菜が横に来る。

 その動きにつられて、結菜に集まっていたペンギンたちもこちらに近寄り、餌を求めて鳴く。

「この子が僕に似ているってどこが?」

「ひとりでいるところと、皆が来たら逃げるところ」

 結菜のいう通り、さっきまで餌を食べていたペンギンは、どこかに行ってしまった。

「言い方酷いよ?」

「それと、その子の名前、『アオイ』らしいよ」

「へぇ、偶然だね」

「そこは嘘でも運命だねって言おうよ」

 アオイペンギンは、確かに僕に似ているのかもしれない。

「ユナペンギンはいないの?」

 そう聞くと、結菜はニヤニヤと笑って、

「それがね、居るんだよ! あの子! あのちょっと羽が黒い子」

 ユナペンギンは、他のペンギンと共に行動している。もちろん、結菜に餌への期待の眼差しを向けながら。

「しかもね、この子たちカップルみたいだよ! 私たちと同じだね!」

「そうだね」

 アオイペンギンがひとりで泳いでいるところに、ぴょんとユナペンギンが来た。

 アオイペンギンは、まるで『泳いでいるのに邪魔しないで』と言いたげだったが、楽しそうに泳ぐユナペンギンを見て、『まぁ、こういうのもアリか』と思って一緒に泳いでいるようだった。

 息のあった二人の泳ぎは、お客さんの視線を釘付けにする。

 出来れば、ひとりでいたい。

 あんまり人と関わりたくない。

 僕もアオイペンギンも同じような考えを持って生きているのだろう。

 けれど、結菜のように親しくこられるとやはり、無理に追い返す事も出来ずにそのスタンスは少しずつ形を崩してしまう。

 そして、いつの間にか自分じゃない自分が当たり前になっている。

 人と関わるのが当たり前になっている自分や誰かと共に過ごすのが楽しいと思う自分が。

 そうして、自分を変えてくれた人に少なからず、感謝の気持ちを覚える。

 そして、いつの間にか恋をしている。

 ペンギンのような君に恋をしている。

 僕は改めて、結菜に大切なものを貰ったんだと思う。

 僕がそう思ったとき、アオイペンギンは、照れくさそうにユナペンギンを抱きしめた。