朝、ジリリリと目覚まし時計が鳴る音が耳元に響く。

「……ぅるさっ……」

昨夜は、興奮してあまり寝れなかったからか、すぐに朝がきたように思う。

 結菜の楽しむ顔が浮かんでそれを想像しているだけで嬉しいから、目をつむっても寝れずにまだ夏の暑さが残っている九月の夜に熱い熱いと言いながら、ゴロゴロしていた所までは寝起きでも記憶にある。

 だが、それからの記憶はないのできっと僅かな時間だが眠れたのだろう。

 机に寄ると、そこには飯島さんから貰ったペンギンの重しが太陽光を受けてギラリと鈍く銀色に光っていた。

 そこにしかれてあるのは、二枚の水族館のチケット。

 長瀬に貰った新黄(しんおう)駅にある有名な水族館のチケットだ。

 それを見て、いよいよデートだという楽しさと少しの不安が心にのしかかってくる。

 ちなみに、結菜とは駅で待ち合わせをしている。

 リビングまで降りて、真っ先に洗面所へ向かう。

 鏡の中で僕は微笑んでいた。

 楽しそうに、嬉しそうに笑っていた。

 
 僕は平常心を整えるため、水で顔を洗い、整髪料をつけて、いつものストレートヘアーをする。

 そういえば、僕が伊達メガネを外した理由だがそれは、結菜と付き合ったことである。

 もともとこの伊達メガネは、小説家だった亡き祖父がメガネをかけていたのを見てかけはじめた。

 今までの僕は他人に興味を示さず、誰かに話しかけられなければ、会話もしない人間だった。

 少なくとも、結菜と出会う前まではそうだった。

 結菜と出会って図書室で読書をしだすようになってからは、『素』の自分をだすようになっていた。

 そこから、本来の自分をだすようになって、誰かと関わりを覚えたから、いつの間にか外していたんだと思う。

 結菜が居なければ僕はきっとこんなに幸せになれなかっただろう。

 輝たちとも疎遠になってしまっていたのかもしれない。

 僕の全てを変えてくれた結菜が今日を最高の日にしてもらえるようにちゃんとプランは考えている。

 その水族館には、ペンギンと触れ合える時間があり、ペンギンが好きな結菜にとって最高の機会だといえるだろう。

 それだけでなく、定番のイルカショーもあり、そこでの数々のパフォーマンスは結菜は大興奮間違いなしだろう。

 その隣で、僕もきっと興奮しているのだろう。

 言い出したらキリがないが一日で回れるほどの手軽な場所なのにその分の興奮は大きい。

 心の底から楽しみだ。

 僕が朝から楽しそうにしているのはきっと初めてだと思う。

 眠気も吹き飛んでうきうき気分で朝ご飯の食パンを食べる。

 いつも通り、イチゴジャムをたっぷりと乗せ、耳までカリッと焼いた最高に美味しい朝ご飯。

 いつかは、結菜と一緒にこれを食べたいな。

 僕はきっとそう遠くないはずの未来を想像しながら、朝ご飯を食べ終えた。

 それから、着替えるのだけどこれが一番時間がかかった。

 好きと気がつくまではそれなりの服を選んでいたが、今はそうもいかない。

 自分なりになにがオシャレでかっこいいか自問自答しながら似合う服を探すが、さすがは僕だった。

 似合う服が少なすぎて、いつも通りのチノパンに水色のグラデーションが綺麗なTシャツにもし、館内がクーラーが効きすぎて寒かった時用の紫のカーディガンを着用。

 派手すぎず、地味すぎずいかにも無難な服を選んだという事が丸わかりな格好だった。

 ちなみに待ち合わせは九時。

 僕が起きたのが五時だったから、一時間くらい服選びに悩んでいたことになる。

 恋愛小説で待ち合わせは男が先に行った方がいいと書いていたので、それに従い、僕は最終チェックをする。

 チケットよし、財布よし、楽しむ心の準備よし。

 気休め程度だけど、お守りとして以前一度だけつけた輝から貰ったロザリオを財布の中に入れた。

 結菜とのラインを見返して、待ち合わせ場所の再確認をしてから僕は荷物を持ち、玄関をでる。

「いってきます」

 久しぶりの休暇をとってまだ寝ている両親に向けて、そう言った。