それから、僕らはお互いの時間を過ごした。

 結菜が勧めてくれた小説は、読みやすく、心に優しく言葉が溶け込んできて、濃密な読書時間となった。

 そして、読了までの時間が少しずつ以前までの二時間程度に戻っていた事に気がつく。

 やはり、結菜への恋心が読了までの時間を遅らせていたのだと思う。

 きっと、あの時の僕は読書で恋心の扱いの糸口を探していたのだろう。

 あれだけ、悩み、思い、苦しんだおかげで今、こうして結菜が彼女としていてくれている嬉しさがあるのだけど。

 外見はなにも変わっていないのに、昨日と今日とで僕があまりにも変わりすぎている。

 女の子を名前で呼ぶなんてした事がなかった。

 毎日が充実している楽しかったと思える日なんて、片手で数えるほどしかなかった。

 結菜が側にいてくれるだけでこんなにも世界が変わる。

 見え方が変わって、友達も出来た。

 価値観も変わった。

 誰かといる喜び。

 誰かと共になにかをする楽しさ。

 ひとりや読書では味わえない心に残る楽しさを結菜は教えてくれた。

 この幸せを僕は今、噛みしめている。

 どうしようもなく、隣で頬をニンマリとさせながら動物図鑑を見ている結菜がいとおしい。

 いつしかと同じようで違う光景。

 太陽光が夕日に変わっていることや、微弱だったクーラーの音が少し大きくなっていることや僕がもう伊達メガネを着けていないとかじゃなくて。

 僕らの関係があの日より大きく変わっている。

 結菜が彼女として隣に座っていること。

 そうして、僕らは恋人同士であること。

 それが、なによりの変化だ。

 
 ここまでひとりの力で結菜と結ばれたわけではない。

 長瀬や輝、神田さんに坂本さん、アカ姉の助言や行動があって、こうして結菜とここにいる。

 それにすごく感謝をしている。

 きっと、感謝してもしきれないほどだろう。

 結菜とのデートまであと三日しかない。

 最高のデートにしたい。全力のエスコートをしたい。
 
 この三日が勝負だ。